10話
私の名はエイン、このヘイトという王国にて騎士団長をしている。この町ヘイト王国は近隣国と比べてそれなりに高い文明を誇っており、武力、財力、高位の魔法技術の習得率が高い。他の国からその技術や財力を求め移住、及び出稼ぎに来るものが非常に多い。
そんな街での騎士団長という事もあり、忙しい毎日が続いている。人が増えればそれだけトラブルは多くなるし、民を守る為常日頃から魔物の動きや隣国の動きに目を光らせていなければいけない。更に街を守る為の騎士団をより強固に、そして信用のできる者たちになるよう育成しなければならない。結果が出なければ減給、または降格もありえる。手を抜けるハズもなく大変なものだ。
そんな忙しく厳しい毎日だが、体は疲れど、心は非常に穏やかに過ごせている。その理由が正午のティータイムのおかげだ。このティータイムは私専用に作られた休み時間で、この時間だけは何人たりとも犯すことができない。それこそこの時間を作った国王であっても、だ。
たった一時間の短い時間だが、全ての職務的な責任や業務を忘れゆっくりと自分で入れた紅茶を飲みながらゆっくりできるこの時間は私にとってかけがえのない至福の時間だ。残り40分分弱の時間、本でも読みながら過ごすとしようか。
「お休みの所失礼します。騎士団長、ご客人です。」
ふいに扉が開けられ、そんなことを告げられた。この時間に客が来るなどありえないし、来ても追い返すように言っていたはずだ。なのでこの至福を壊せるのは魔物だけのはずだが、一体誰だ。
「私がこの時間ティータイムを取っていることは知っていますよね?そしてこの時間に限り王であろうと来客はお断りしていることも。にも関わらずここに連れてくるとは、一体どこのどなたが相手ですか?」
「えーっと……まぁ、いつもの………」
「よぅ、優雅にお茶か?なら俺と遊ぼうや騎士団長様?」
兵士の言葉を遮り悪びれる様子もなく声をかけてきたのはカイルだ。こいつはいつもそうだ。時と場所を考えず問題ごとを見つけてはなぜか私に直接押し付けに来る。その上重要な問題なことがそれなりに多く無視できない私にとって最悪の敵が。私のティータイムでさえも遮るこいつはもしかしたら1000の魔物よりも厄介かもしれない。
「……私がこの時間だけは壊されたくないことを知っていますよね?何故来たのですか?そもそもあなたには近年増えて来ている魔物調査のため遠征に出したはずです。何故まだ街にいるのですか?サボリですか?殺しますよ?」
「相変わらずかてえやつだなぁ。遠征に行く途中でちょぉーっと変な奴見つけてな。捕まえたから連れてきたんだいつも通り相手してくれ。」
「またですか……今度は何を捕まえたんですか?魔境の地から魔族ですか?それとも竜谷からワイバーンでも拾ってきましたか?変な物を捕まえるのはいいですが連れてくるのはやめてくれませんか?研究機関でもそういったものは危険だからとあまり扱ってくれなくて対処に困るんですから。」
そう、いつもそうだコイツはどこかに行っては何かを捕まえてくる。そもそも捕まえるのは大変だし持って帰ってくるのはもっとめんどうなハズだ。なのにこいつは何かを持って帰ってくる。それもそれなりに危険で対処に困るものをだ。
「今回は人間だ。街道で捕まえた。なかなか面白い奴だぞ?喜べ。」
「……街道で人間を攫ってきたんですか?流石に笑えませんね牢屋にぶち込むとしましょう。罪状はそうですね、私のティータイムを妨害した罪でどうでしょうか?」
「それ人間捕まえてきたの関係ねえじゃねえか!それに攫ったんじゃない魔法をぶっ放してる奴がいたから連れてきたんだよ。」
「町から結界の外までの区画はどの街でも魔法禁止エリアですよ?そんなところで魔法ぶっ放す人がいるわけないじゃないですか。嘘を付くとは堕ちましたね、やはり牢に入れて一生ここに来れないようにしましょうそうしましょう。」
「いや嘘じゃねえって外でベルを待たせてる。歩きながら説明するからついてこい。」
「いやなんで私があなたに命令され……あぁもう!勝手にいかないでください!このツケ、いつか絶対払ってもらいますからね!?」
私のティータイムはこの男の持ってきた問題ごとによって儚く散った。心が荒む……どうやってこれから生きてけば……
などと考えながら歩いている間にその人物について色々と聞いた。というか勝手に喋ってたのでとりあえず聞いた。その人物は男性、というより少年で年齢は恐らく15~17の間。髪の毛は黒髪で短くしてあり、所々はねているのが特徴的だそうだ。この国に黒髪というのは少なく非常に珍しい為恐らく別の国の人間だという。
そしてここからが問題の魔法ぶっぱなしの詳細で街道のトンネル上の崖から降りようと思ったところ周りに降りれそうな場所がなく、仕方なくそこから飛び降りて(正気の沙汰ではない。)着地を風魔法で保護したらしい。何故そんな場所にいたのか、禁止エリアでの魔法を使ったのか聞いた所記憶がないらしく気づいたら森の中でとりあえず街を目指した結果とかなんとか。ベルさんに確認をとって嘘ではないことは確定しているらしく、今回は事情聴取及び報告書の提出が私を呼んだ理由らしい。
話を聞き終えるころ丁度町の門が見えてきた。その先にはベルさんと例の少年と思われる黒髪の男がお縄の頂戴状態で立っている。
「こいつがさっきいった奴だ。こっちで話はある程度聞いたからそっちは事実確認だけしてくれればいいぞ。」
「そういう仕事は我々の仕事なんですがね……まあ楽ができるのでいいのですが。」
「おう、感謝してくれていいぞ?」
「そもそも問題を持ってくるのもあなたなんですから感謝するわけないじゃないですか……」
「お?そうだったか?まあ頑張れや!」
「いやだからあなたが……もういいです……」
そういうとカイルがバシバシと背中を叩いてきた。まさか励ましているつもりか?ティータイムを邪魔されてつかれているのに更に痛みを与えてくるとは……こいつはいつか殺そう。そうしよう。
「えーっと、初めまして私はこの国で騎士団長をしているエインです。今日はあなたが禁止エリアで魔法を行使したということで事実確認をしにきました。それについて間違いないですか?」
そう問いかけると言葉なく少年はコクコクと頷いた。
「わかりました。事情聴取は済んでるということで今回は事実確認になります。ご同行していただけますね?」
「はい。」
「よーし、俺の仕事終わりだな。いやぁいいことしたなぁ!」
「もう、あなたは早く帰ってください。門番の君も仕事に戻っていいぞ。ではベルさんこの子の身柄はこちらで預かります。後日報告に参りますのでそれまでお待ちください。」
そういってベルさんから縄を受け取る。今回は人間なだけまだマシ……いやまてなんで騎士団長の私がここまで縄を受け取るのに慣れているんだ?おかしいだろう。騎士団には優秀な奴が沢山いたはずだ。何故ここまで私が働いているんだ…?
「じゃあなボウズ!次からは気をつけろよ!」
「……次はない。」
などと考えている間にお別れが終わっていた。少年の目は少し寂しそうだ。まああの二人は悪い奴らじゃない。少なくとも私はカイルのことを大嫌いだが実績もあり、周りから慕われている。そういえば遠征はカイル、レイトさん、ベルさんの三人に出したハズだがレイトさんはどこに行ったんだろうか……まぁ報告しに行ったときにでも聞こう。
「この街には騎士団の使う詰所があります。そこに聴取部屋というのもあるのでそこでお話を聞かせてもらいましょう。」
私は縄を受け取り、冒険者ギルド前の広場の大きな時計を見ると私のティータイムの時間は丁度終わってしまっていた。心の中で憂鬱だ、と呟きつつ仕事をするために詰め所へと向かい歩き始めた。