イノシシがトラックと衝突したら~その2~
イノシシがトラックと衝突したら、の続きと言えば続きですが、こちらだけでも大丈夫です。
自分に餌付けをしてきた人間を偶然助けるような形でトラックに轢かれて命を失った雄イノシシは、その行動を自己犠牲の尊い行為だと誤解した自称愛と美の慈悲深い女神によって人間の体をもって異世界転生を果たそうとしていた。
だが、彼にとってそれは受け入れがたい事態であった。
彼の自慢の硬く美しい被毛も、雄々しい牙も、たくましい四肢も、強靭な蹄も、よく効く鼻も何もない、人間に転生するなど耐え難い。
脳裏にあるイノシシであった自分の体とあまりにも違う二足歩行のこの身体。
弱点である腹を前面に晒しているなど狂気の沙汰か。
そもそもトラックから人間を助けたと言われても何のことやら。
なんせ生前はイノシシだったので、それほど知恵があったわけではない。
イノシシであった時の記憶は、ただ自分は強かったという事と、飢えたら食べ乾けば飲むという生き物としての欲求と、縄張り維持と子孫繁栄の意識くらいだった。
トラックとは…あのやかましく臭い空気を残すでかくて速い物の事だろうか。
自分の過去の記憶を映像として呼び起こして照らし合わせてみるが、それがなんであるか分かったところで、自分が人間を助けた記憶などかけらもなかった。
「聞きなさい、イノシシであった猪太郎。あなたはわたくしによって優れた能力を持つ人間として生まれ変わっています。」
元雄イノシシであったこの男、猪太郎の前には美しい女神が立っていた。
人間基準で美しい女神なので、猪太郎は何とも思っていなかった。
女神によって与えられた知恵で、言われていることは理解できていたが、そのことに何の感動もない。
猪太郎の無感動な反応に戸惑いを覚えた女神であったが、転生させて早々の時などこちらの話に耳を傾けすらしなかったのだ、まだまし、ましなんだ、マシってなんだよ、私は女神よ敬いなさいひれ伏しなさい一体どういうことなのよ、ムキー、となりながら無理やり自分のペースで話を進める事にした。
「獣でしかなかったあなたにこの私が優れた能力と体を与えたのです。」
大きなお世話である。猪太郎はイノシシの身の自分に何の不自由も感じていなかった。
普通にイノシシのまま生き返らせて、餌の豊富な森に放してやった方が猪太郎にとっては幸福だったのではなかろうか。
「さあ、新しい人生の始まりです。あなたが素晴らしい人生を過ごすことを期待しています!」
投げやりな女神の宣言とともに猪太郎の体が光に包まれる。
人間にしては毛深く雄々しい身体、りりしく整った顔が光に包まれる。
生まれ変わったばかりの猪太郎は真っ裸であった。
獣であった猪太郎が自分が真っ裸であることに気づくわけもなく。
やたらといい身体の美丈夫露出狂誕生の瞬間が今まさに訪れようとしていた・・・・。