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自己犠牲愛

作者: 和の心

 世界は人で溢れてしまった。


 医療技術の発達が主な原因となり先進国の平均寿命は90歳を超えた。発達したのは医療技術だけではなく、その他の技術も競い合うかのように発達していった。こっちの分野で新技術が開発されれば、またこっちの分野で新技術が発見される。そんな目まぐるしい技術の向上は世界をほんの少し変えた。


 戦争がなくなったわけでもないし、貧富の差もなくならないし、犯罪がなくなるわけもなかった。


 それでも世界はほんの少しマシになった。

 それでも世界はほんの少し幸せになった。


 先進国も途上国も実感できるくらいには豊かなった。


 しかし、そのほんの少しは後に不幸を呼ぶ。


 超巨大人口爆発が起きたのだ。


 アフリカ大陸を中心とした発展途上国での医療の発達が契機となり世界の人口は200億を超えた。


 医療技術の発達と同時に食糧生産技術も勿論、発達していた。

 そのため食糧不足で世界中が悩むということは幸いにも起こらなかった。


 --世界中では


 超巨大人口爆発が起こり、これ以上増え続ければ本当に食糧危機に陥ると考えた各国は食物の輸出を抑え始めたのだ。


 そのあおりを受けたのが日本だ。

 食物自給率の低い日本は当然この変化に耐えられなかった。


 多くの食べ物が高騰し人々はモヤシを家で栽培して凌ぐ暮らしを余儀なくされた。



 そんなある日、一人の高齢者が自殺した。98歳の男性だった。

 自殺した理由が曾孫、孫達に出来るだけお腹いっぱいになって欲しかったからだった。


 この事がニュースで取り上げられると、世間は大騒ぎした。


 なんて美しい自己犠牲愛なんだろう!と


 騒いだのは日本だけで留まらない。世界中がそのお爺さんを賞賛したのだ。


 これが日本の侍スピリットだ!遥か昔は主のため、戦時中はお国のため、そして今度は家族のために命を捨てる!武士道は今も昔も日本人に根付いている!


 騒ぎに騒がれ、遂にはそのお爺さんはその年のノーベル平和賞を受賞した。

 死んだお爺さんの代わりに賞を受け取った孫の涙は世界を感動させた。


 そんな出来事の後の翌年から日本の平均寿命はグッと下がった。


 高齢者達が自殺を始めたのだ。


 ネットでは高齢者専用の集団自殺サイトが開かれたり、病院では安楽死の方法を聞く人もいた。


 事態を重くみた政府は一つの政策を掲げた


 それは、高齢者(90歳以上)が望むなら安楽死させる事を許可するといった内容だった。更にその家族にも補助金も出すと言う。そして法律が出来るまでの二年間で自殺した高齢者がいる家庭にも補助金を給付するといった内容だった。


 初めは人権無視だと騒がれ叩かれた日本政府だったが、65歳以上の高齢者達がその政策を支持したのだ。何も出来ず家族の迷惑となっているこの身が家族の役に立つのならば、と。


 本人逹がそう言うなら仕方がない。


 遂に法律が制定、施行された。


 そして多くの老人達が安楽死を望んだ。それは各地です長く順番を待たなければいけない程であった。

 そのため順番を待っていた間に亡くなってしまうという事態が発生し、急遽、その場合の対応についての緊急会議が開かれたりもした。


 また安楽死をした高齢の人達は英雄と呼ばれ国が管理する慰霊碑に名前が刻まれていった。その慰霊碑の中心にはノーベル平和賞を取ったお爺さんの名前が刻まれてあった。

 毎日のようにその慰霊碑がある公園には手を合わせに人が訪れていた。


 何て素晴らしい自己犠牲愛だろうか!まだ、定年にも満たないサラリーマンは自分も家族のために死ねる人間になろうと考え始めた。


 ただ安楽死を望ず生き続けている老人に対しての社会の目は冷たくなった。その事が社会問題となりテレビで取り上げられ、偉い人が本を書き出版されていった。


 安楽死は望む高齢者は人数は施行したその年は約50%にも上っていたが、しばらくするとブームも去りその人数は15%未満となっていた。


 そして、さらに時間が経ち遂に世界の食糧生産技術が発達し人口増加に追いつく事が出来た。そのおかげで、また昔と同じ様に世界各国と貿易を始め、食糧問題も解決された。


 しかし、安楽死の法律は無くなる事はなく、そして未だに毎年5%以上の高齢者が安楽死を望んでいた。

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[良い点] あり得る未来、あってはならない未来についてなかなか良く考察されていると感じました。 死を美談にする風潮は許してはいけないはずですが、それが戦争中の日本で現実に行われていたのも事実。 いろい…
[気になる点] 『自己犠牲』を『事故犠牲』にしてるのはわざとですかね? (´・ω・`) タイトルは自己犠牲ですが文中では二箇所、事故犠牲に
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