事件
「どうしてよりにもよって、お前と二人で遊園地なんかに来ないと行けないんだよ?」
少年のぼやく声に対して、少女の声が返答する。
「仕方ないでしょ?他の二人は急用が入っちゃったって言ってたし」
「……あいつら、わざとじゃないだろうな……」
「ほらほら、そんな事よりあそこのお化け屋敷入ってみない?」
「お化け屋敷?」
「何、怖いの?」
「怖くなんかねぇよ」
「なら行こうよ!」
「……はあ。わかったよ」
…………………………。
薄暗い照明にぼんやりと照らされた場内を進む二人。
「なんか、不気味だね」
「お前が入ろうっつったんだぞ?」
「わかってるよぅ」
男女の前にプランと吊るされるこんにゃく。
随分と古典的な仕掛けだが、少女は頬に触れたその感覚に叫び声をあげる。
「きゃあああああああっ!?」
「うるさい。耳元で叫ぶな。まとわりつくな」
「もうちょっと優しくしてくれてもいいじゃない……」
さらに進むと、棺の影から白装束の長髪が現れる。
「うう……あ」
「ひっ」
声も出せない少女に、そのまま頭二つ分ほど大きな幽霊は寄りかかる。
「やああああっ!お化けぇえええ!取ってぇえええええええええ!!」
「まったく、虫じゃねえんだから」
少年は彼女に近寄ると、
「よく見ろ。ただの人間だよ」
「ね、ねぇ……」
力なくもたれかかる白い人影からカクカクと視線を逸らしながら少年を見つめる。
「この、人。ほ、ほ、本当に……死んでる」
この言葉にはさすがに少年も驚愕したらしく、声を漏らした。
「なっ……?」
恐る恐る、と言った様子で白装束の人物に歩み寄っていく。
「いやあ、そんな訳ないだろ?本当に人が死んでるなんて……」
彼は幽霊の手首に右手を伸ばし、脈を測る。
そして、
「……ほんまや」
この場で放つギャグとしてはあまりに不謹慎だと思う。
少女は自分の感じたことが思い違いでないと分かると、もう一度大きな悲鳴を上げると死体を振り払い後ずさった。
ドタリ、と赤い血にまみれた幽霊は地面に倒れ伏した。
状況の深刻さを悟った少年は、傍らの少女に指示を飛ばす。
「入口まで戻って事情を説明するんだ!お化け屋敷を閉鎖させて、人の出入りを止めてくれ!」
「で、でも。私、一人で……?」
「俺はここに残って、警察に連絡する!誰かが現場を見てた方がいいだろ?」
「わ、わかった」
頷くと、来た道を引き返す様に現場を走り去った。
…………………………。
警察官が到着し、照明が上げられ明るくなった現場には容疑者たちが集められた。
現場の中心である十字架の描かれた黒い棺の横に立った警官が口を開く。死体のあった場所には白いテープで象られた人型が遺されている。
「とりあえず、お化け屋敷内にいた人たちに集まってもらったわけですが、これで全員ですかね?」
「事件があってからすぐに閉鎖してもらったので、そうだと思います」
質問には、少年が答えた。
「その割に、少なくないですか?お化け屋敷のスタッフ」
彼は現場に集まった人々の顔を見渡して言った。
現在、その場にいるのは警官を除けば第一発見者の少年と少女。それから男性が二人。男性の内の一人は入場者で、お化け屋敷から出ようとしたところで出入り口のスタッフに止められたんだとか。
少女がそろりと手を上げる。
「あの。一人、足りない気が……」
そこに、Tシャツにジャージを合わせた短髪の女性が出口側から走り込んできた。
「すみません。遅くなりました」
「困りますね。これから取り調べをするところですよ」
女性を咎めるように警官が言うと、申し訳なさそうに頭を下げる。
「これで全員ですか?」
改めて尋ねると、最後に入ってきた女の人が口を開く。
「あ、ごめんなさい。スタッフがもう一人いたような気がするんですが」
「気がするって」
「すみません。私、バイトなので」
「因みに、事件が起こった時にはどこに?」
尋ねられて、彼女は頭上を指で示した。
「天井に潜んで、こんにゃくを垂らしてました」
「こんにゃく……?」
予想外の答えが返ってきて困惑の表情を浮かべる警官。
「あー!あなただったの?すごくびっくりしたんだから!」
頬を膨らませて抗議する少女。その発言を補足するように少年が述べる。
「確かに、俺たちがその道を通った時に落ちてきましたよ。こんにゃく」
「歩いてきたお客さんの顔に糸で吊るしたこんにゃくを当てるんです」
「なるほど」
納得したようにうなずいてから、もう一人のスタッフに水を向ける。
彼は出口付近でお客を脅かす役回りで、事件当時もそこにいたと証言している。
「では、次はあなたにお聞きしますが。まず、スタッフはもう一人いるんですか?」
「ええ、いますよ」
「その方は今どこにいらっしゃるんでしょうか?」
「さあ。朝はいたんですけどね」
気のない返事にいらだった様子で警官が追及する。
「どうして把握してないんですか?仕事仲間なんですよね?」
聞かれて、男は「興味ないので」と簡単な言葉を返してから続ける。
「誰もあいつには関わりたがらないんですよ」
「それはまた、どうして?」
「いつも顔を隠してて、口もあまり聞かないし、なんとなく怪しいんですよ」
病気かなんかの事情があるらしいですけど、と付け足す様に呟いて目を逸らした。
それ以上有力な情報を得られそうにないと判断したのか、尋問の対象がもう一人の男に移る。
「じゃあ、次はあなたです」
おどおどとした男は、
「ぼ、僕ですか……?」
「一応お話を聞かせてもらうだけですよ」
「じ、事件が起こったくらいの時はあの男の人に脅かされてましたよ」
「確かですか?」
話を振られてさっきの男が面倒そうに返答した。
「ま、確かにそうだったな。でもそれが事件の前だったか後だったかはわかんねぇけど」
「ど、どういう意味ですかぁ!?」
スタッフの男は相手を訝し気に見つめて言う。
「現場から出口はそう遠くはない。そこの女を殺してからあそこを通った可能性だってゼロじゃないってこった」
「そ、そんな」
「まぁまぁ」
狼狽える男を警官がなだめる。
「最後に、君たちだね」
次に、第一発見者の少年と少女に視線を向けた。
「君たちはデートでここに来たのかい?」
「ち、違いますよっ」
「本当はもう二人来る予定だったんですけど」
説明しようとした少年の言葉を絶ち斬って、
「それはそうと」
「興味ないなら聞かないでください。全然関係ないですし」
「君たちは殺ってないよね?」
「どんな質問ですか。殺ってないですよ」
そこまでの掛け合いがまるで無かったかのように、平然と取り調べに入る。
「死体を発見したときの状況を教えてくれるかな」
「ゆ、幽霊の人が脅かして来たと思ったら……倒れかかってきて」
「その時には、まだ息はあったのかい?」
「はい。俺たちは彼女のうめき声を聞いているので」
「その後に、被害者は息を引き取ったと」
「そうですね。幽霊が動かないことに彼女が気付いて、それで脈を取ったら死んでました」
「やっぱりあの子、彼女なの?」
「そのネタ、まだ引っ張りますか」




