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冬支度

中々調子が戻らず、やる気スイッチ行方不明です。

物語をどどーんかっこよくズバッとかけるスイッチが欲しいです。

「あったかーい風吹いてー」

「ぬくぬく風さん、ここだけ吹いてー」


メルとネルは春風の魔法の練習をしていた。

教師はエルメイロスではあるのだが、そもそも彼が双子に教える魔法は人の扱える範疇のものではない。風を軽く吹かせたり、そよ風を強風にしたりと言ったものは人でも扱えるが、世界の季節を司る四季の風を扱う魔法は、難しい。

風、と一言に片付けてしまっているが、天候季節を司る風達はそれぞれ神格を持つ。多くの眷属を持つ精霊なのだ。

縁のない人間には、まず反応もしないし、意識の端にすら引っ掛けてもらえないのだ。


「春風を呼ぶなら、ちゃんと呼ばないと自分が呼ばれてるって分からないよ。

春を運んでくる風が、自分が呼ばれてるんだって聞こえるようにね」


「「えー?むずかしーいー」」


不満の声を上げる二人は、ぴょんぴょん跳ねながらエルメイロスに「ヒントー」と強請る。


「甘えないの。

君たちの頭は空っぽなの?あるものをきちんと使えない子はお馬鹿さんだよ」


「「ぶーぶー!ぶーぶー!」」


不満を一切隠さずに唇を尖らせ唸る双子。

そんな二人の鼻をつまんんで、二人を嗜める。


「子豚さんになっちゃうのかな?」


「ネー、子豚じゃないよ!」

「メーも、子豚じゃないからね!」

「じゃあ、出来るよね。お利口さんたち」


「「出来るよ!」」


お利口だから!

と、二人口を揃えた。脈絡なく乗せられてやる気になる。

標高の高いトランは、冬が厳しい。

双子の何気ない「寒いの嫌い」と言う呟きを聞いて、気まぐれの風の覇王エルメイロスが春風を呼ぶ魔法の伝授という流れになったのだ。


「春風と仲良くなると、大きな春は貰えなくても小さな春くらいなら届けてくれるからね。

天候を左右するのでは無くて、君たちだけの春をもらえるようにね」


気まぐれだが、面倒見がなかなか良いエルメイロスは、こう言う事柄でよく双子に魔法を教えている。

あっさり説明している内容は、天候を左右するよりもかなり難易度の高い要求であったりするのだが、覇王はそんな事は御構い無しであるのは、いつもの事。


「うーむ、うーむ。あ、そうだ!

『春風さーん、春風さーん。メルとネルと遊んでください』」


メルは、小さな両手を空に突き出したかと思えば、春風に呼びかけながらゆらゆら体も両手も揺らし始めた。


「『トランの春の春風さん、ネルとメルと、あーそびましょー』」


ネルも、メルを真似て両手を空に突き出して、ふにゃふにゃ体を揺らし始めた。


「「『あーそびましょーったらあーそびましょー。

ゆらゆらゆらりーゆらゆらりん。

はーるかーぜなかよしおーどりましょー』」」


メルとネルの二人の声が重なって、全くリズムの合わない二人の春風ダンスが始まった。


「なんて言うか、君たちって独特だよね」

「たのしーよー」

「たのしいねー」


ゆらゆら、ふにゃふにゃ、くーるくる。

ふにゃふにゃ、ゆらりゆらり、くるくるりん。


「「『はーるかぜさーん、あーそびましょー』」」


ふわり、と柔らかい暖かい風が吹く。

風はどこからか花びらを舞い上がらせながら、双子を包み込むようにくるくると回るように緩やかに収束して、揺らめきの様な温もりを双子にもたらした。


『なんと、愛らしき呼び声かと来てみれば』


形を為さぬままに、声が降り注ぐ。


「春風さんきた!」

メルがピョンと跳ねた。


「春風さんきた?」

ネルはくるりんと回ってから跳ねた。

「アレで来るんだね……」

エルメイロスは少し呆れた様な、しかし、自分が教えたのだから当然の結果、とも納得して、形を為さぬままでも、この場に現れた春風と双子を見つめる。


『熱烈に呼ばれたので参ったが、この地はまだ我の役割を果たす時期ではないな』


「あのね!メルねネルと春風さんと遊んでー!て呼んだ!」

「ネルも!あそぼ!」

『遊ぶのか?なんと愛らしき双極か』


男女ともつかない声音は双子を包み込んで撫でる様に擽ぐる。

双子はきゃきゃきゃっ、と笑いながらくるくる回ったり踊ったり風に飛び込んだりと、文字通り遊び始めた。

こうなれば、もう二人にはエルメイロスの声は届かない。

遊びは常に全力なのだ。


トランは冬を間近に控えた秋だ。

春はまだまだ遠い。

これから厳しい寒さに閉ざされて長い冬が始まるのだ。

冬になればトランはまるで時間が止まったかの様になる。

城や都は、雪と氷に包まれて、トランの山々は死の世界そのものの様に閉ざされる。


この時期にはトランと付き合いのある国々は、外交を控えて来る。

交易も激減する。

トランの民も国そのものが冬籠りに入るからだ。

だから、と言うだけの理由でもないが、この時期は皆大忙しである。

冬の間の蓄えを収穫する最終段階と言うタイミングだった。


『愛らしき双極の姫君たちよ、そなたらに我の惜しみなき心を愛を注ごう』


「やったー!また遊んでくれる?」

「また遊んでよ!」


『無論、呼べばいつ何時どこでも訪れよう』


「僕はメルっていうの!ネルはネルだよ!春風さんこれからも遊んでね!」

姿なき温もりの風にメルは呼びかけた。


「寒い時、小さな春ちょうだい!」


『いくらでも与えよう』


やったー!と双子は飛び跳ねて喜ぶ。

「アレで、良いんだ。春の王」

エルメイロスが苦笑しつつ一人呟くと、そっと彼の頬にも暖かい風が触れた。


『呼べばいつでも会いに来よう、欲すればいくらでも春を与えよう、永遠の枯れぬ恵みと繁栄を』

そう声音は囁いて、程なく霧散した。

色とりどりの花びらも、光になって空気中に溶けて消えた。

「「楽しかったねー!」」

双子はきゃっきゃっとはしゃぎながらエルメイロスに抱きついた。


「エロロー出来たー!」

「エロロ出来たー!」


じゃれついて来る双子の頭をそれぞれ軽く撫でてやる。

そこへフランが現れる。

「御二方、陛下がお呼びでございます」

双子はピクンと反応して姿勢を正す。


「「何も悪いことしてないよ!」」

「……………そのお話はまた後ほど。

メル様、ネル様、サーハからの使者が参りました」


フランの言葉に、双子はキョトンとお互い顔を見合わせた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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