サーハの事情
ダラダラしてたらこんな時間になってしまいました。
まだ暮れてないけれども、寝正月始まってます。
あけてないけれども。
離海と呼ばれる海がある。
サーハとトランを隔てる第一の壁。
複雑で激しい海流で、大規模な渦潮がいつ何処で起こるかわからない上に、魔物も多く生息し並の船では航海することが出来ない。
何年も魔術師や僧侶が祈りや魔術を込めたり駆使したりで作られた材質を持ったものでないと、離海で命を落とすことになるのだ。
しかし、船を出せる絶対数が少ない分、海産物は豊富である。
指輪を手に入れたアラハナンが王となってまず手をつけた政策は、あってなきが如くの港町を活性化させる事だった。
家臣達に請われて、アラハナンは魔神に命じた。
離海を制せよ、と。
しかし、その願いは叶えられなかった。
「海神は私より幾分か格が上の為、海神が配する海を制することは敵いません。
いえ、離海そのものだけでしたら、規模としては不可能ではありませんが、あの海の有様は海神の都合でなされたもの。
勝手をしてしまえば、私ばかりか、このサーハそのものが海神の怒りを買い、海の底に沈むことになりましょう」
丁寧な説明と忠告を受けて、アラハナンは少し考えた。
少しだけ考えて答えを出す。
「指輪の魔神よ、ならば、離海で航行可能な漁船を50用意しておくれ。大きくなくて良い。
小舟でなければ良い。
いくら使っても摩耗せぬ漁の網も50と、その船と網は魔物に襲われぬようにもしておくれ」
「それならば可能でございます」
「ついでに、港も整えておくれ。
50の漁船とその船にそれぞれ網を配し、整えた港に無理なく設置しておくれ」
「かしこまりました」
恭しく魔神は頭を垂れて、早速魔法でアラハナンの言葉を実現していく。
港町に名前はなかった。
ものはついでだ、名前を決めてしまおうと、アラハナンはまた少しだけ思案する。
しかし、思いつかない。
「誰かに任せるとしよう」
アラハナンはあまり深く考えることをしない。
任せられる者があれば、大体の事は任せてしまう。
自分の上の兄達、下の弟達は自分よりもずっと優秀なのが分かっている為、無理なく仕事を回していく。
アラハナンが突然王位についた事に関して、兄弟達に不満が勿論無かった訳では無かったのだが、
万が一、アラハナンが死んだ後は指輪の所有権は次代の王に引き継がれる、と言う事を明言し、指輪の魔神にもそう命じた為、皆不満を最小にして胸の中に収めたのだ。
アラハナンが暗殺や謀に連なる事柄で命を落とした場合は、当て嵌まらぬ様にともされている。
時期王を決める際の殺し合い騙し合いも起これば指輪の所有権を失う、とも決めていた。兄弟達は何とも毒気を抜かれてしまう。
気弱で泣き虫のアラハナンだからこその待遇なのだと、周りが諦めた。
指輪を持ち魔神を従えさせているサーハ王アラハナンが絶対者である事は、まぎれもない事実なのだから。
そして、港町の名付けと共に漁に関したあれこれの法整備設備等々の事柄を丸投げされたのは第2王子エイデュランだった。
なんだかんだとうまく国が回りはじめてるのは、アラハナンが甘え上手だったのもあった。エイデュランはそれをよく理解している一人だった。
昔からすぐ下の弟は、困ったら事柄によって誰に泣きつけば良いか心得ていた。
できない事を出来るようになるまでの時間を使うより、出来る誰かに任せて、自分はできる事(したい事)を思い切りする。
そういう性格なのだ。
指輪の魔神は恐ろしい。
しかし、甘えん坊で泣き虫で政治力に乏しいアラハナンは皆から侮られていた。だからこそ、頼まれごとと言う形の命令に、仕方がないと従うのだ。
エイデュランは思う、この事象まで全てがアラハナンの計算の上だったら、と。
あり得なくはないのだ、何故なら弟は、アラハナンは実際に魔法の指輪を手に入れて魔神を従えているのだから。
周りに吹聴はしない。エイデュランは愚かではないし、愚かである事を好まない性質だった。
だからこそ思ったのだ。
頼られている間は、必要以上に恐る事はやめようと。
自分が想像するアラハナンが現実だったとしたら、エイデュランの思考もまた読まれていても不思議ではないのだから。ならば、賢くその手のひらで踊ったほうが得策というものだ。
ごく少数ではあるが、そうエイデュランと同じく思考した者達がおり、またその者達が上手く立ち回るので、より内政はかつてより充実していく。
そしてまた新たに、指輪の魔神とアラハナンへの畏怖が高まるのだ。
事実は常に想像の遥か上を行く。
それをサーハは現実で常に体感しているのだ。
実際を言えば、アラハナンは頭は悪くないが基本単なる甘えたであるだけなのだが。
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