地震と優しさと
灰色の暗殺者の話にしようと思ってたんですが、せっかく双子たちや魔王が出たのに、また違う流れにもなりそうだと、この形に収めました。
灰色の暗殺者は別の短編でかこうかな?とか思案中です。
「ねんねーねんねー」
「たいのたいのぽーい」
主人たちが寝台で寝かされている子供達に魔法の言葉としてクスクスコソコソ話しかけている。俺たちに(エルメイロスが、だが)保護された子供達はぐっすり眠っている。
眠らせている、と言ったほうが正しい。
「小さい子供が騒ぐと大変でしょ?
大変な事があったみたいだから、体力や心がある程度睡眠で回復するまでは眠らせておこう」
と、エルメイロスが眠らせている。
あの風は子供達の素性をまだ話さない。
「ねーむ、ねーむ」
「ねんねー……」
主人たちも、寝落ちしそうだ。そろそろお昼寝の時間か。
「お昼寝はお部屋に戻らないとな」
「「あーん、もうつこちいりゅー」」
「お昼寝が終わって、おやつを食べたらまた来ような」
抱き上げて部屋を出たら、文句もなく俺の腕の中で寝落ちした。
小さな三人の幼児は女児だった。
命に関わる程には届いていなかったが、栄養失調が深刻で、幼児特有のふっくらとした輪郭はなかった。
大切にされていない子供だと見て取れる。
もう一人の年長の少年は、栄養状態は問題はない。むしろ健康そのもの。
しかし肉体的にも精神的にも著しい消耗を見せた。
衣服は粗末なものだが、髪の毛や爪は綺麗だ。
大切にされてきた子供だと見て取れる。
エルメイロスの様子から、何かがあったのだろうが。
目覚めてまともに話が聞ければ良いが。
子供というのは、精神的負荷を負うと、言葉を案外あっさりと崩壊させてしまうからな。
「ゆっくりおやすみ、我が主人たち」
スヤスヤ眠る二人を寝台におろしてそれぞれのこめかみと額にキスを落とす。
暖かな体温と柔らかな香りを感じる。
俺が寝台から離れると、女官たちが二人が冷えぬようにとブランケットをかけて、側に控える。
ニコニコと互いに視線を交わし「お可愛らしい、愛おしい」と言葉なく会話を交わしている。
「おめめあいたの!おかかたま!おかかたまー!」
「おめめあいたーおっきすゆー?」
「これ、メル、ネル、寝台の上で跳ねません!」
「「あい!」」
ぼえんぼえん、とフランネイルの体に正体不明の振動は経験数の少ない地震かと思いきや、何者かが寝台の上ではねていたかららしい、と聞こえた声から察して、ゆっくりと視線を巡らせる。
「おはよーごじゃましゅ」
「おはよーごじゅましゅ」
挨拶の声、幼い。
孤児たちだろうか?無事に逃げおおせたのだろうか?
フランネイルは体を起こそうとするも、少し力が入りにくい。
「無理に体を動かさないで、あなたは三日三晩眠り続けていたのですよ」
優しい声がする。
母上に似た声。凛と通る高くも低くもない思いやりの声だ。
「は、は、っ、え……」
掠れた声とのどかカラカラで掠れ切った声がようやく出せる。
「あなたの母ではありませんが、ここは安全です。安心して心身共に休めて下さい。
すぐに食べやすいものと飲み物を用意させます」
安全、と聞いてホッとする。
そして思い出す。
「あああ!!?」
ガバリと体を主題から起こすと、身体中から激痛が起こり、息を詰めてしまう。
「あなたと共に保護された小さな女の子三人も無事ですよ」
その言葉を聞いて、涙が流れる。
(クリストフは?ほかの孤児院の子供達は!?)
脳内に、首のはねられた子供の姿、クリストフの別れの時の顔、フランネイルと衣服を交換した少年たちの顔が浮かぶ。
不意に、まぶたに温もりを感じる。
「まだ、何があったのかは聞かぬ。
深く呼吸をなさい、ここは安全です。あなたから何も奪いません、あなたを傷つけません。約束します」
ゆったりと、そしてはっきりと語られる言葉は、知らずフランネイルを落ち着かせた。
「ほら、水を飲みなさい。喉がかわいているだろう?」
涙を流すなら、水をしっかりとらないと。
そう呟かれる。
フランネイルは言われるままの深呼吸を繰り返し、徐々に落ち着く。
そっと小さな、水差しの口が自分の唇を割って差し込まれる。
そこから冷たくない、けれどひんやりとした心地の良い水が口の中に注がれた。
甘い。
水とはこんなに甘いのか!と驚くほどの甘さに、フランネイルは目を見開いた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
 




