エルメイロスと双子のおでかけ
本当は水戸黄門の様に登場させたかったんです。
エルメイロスは総勢二百人弱のメルとネルの一行を風に乗せて天空を移動していた。
しかし速度は非常に緩やかで、空中に響き渡る双子の鳴き声に、雰囲気は最悪である。
「いしょいで!はやく!あっちー!!!」
「はやくなのー!はやくなのー!」
泣き叫んで癇癪を起こしたように地団駄を踏む幼児二人を、エルメイロスは静かな微笑みで見つめる。
魔王改めゆうたたまは憮然としている。
「どうして急ぐの?せっかくの空の旅だよ、楽しんで。
私がこうして人の身を案じた上で運んであげるなんて、本当はない事なんだから」
唇は笑みを象るも、その瞳は冷ややかだ。
メルもネルも、自分を甘やかさない大人であるとエルメイロスを捉えてはいたが、ここで要求を曲げるほどおとなしい性格ではなかった。
「あっちー!たちけててないてるのー!ないてるのー!いくのー!ゆうたたまとー!ぬーたんとー!」
メルが叫び彼方を指差すと、エルメイロスはとろけるように微笑んだ。
「うん、あっちだねぇ。
沢山小さい子供が殺されてるね。君たちと同じくらいの子供もいるね。
うん、お家騒動の巻き添えかぁ。
うんうん、助けたいの?どうしてかな?」
「らってぇ!ないてるわ!たちけてててないてるにょよー!!」
ネルも必死に訴える。
エルメイロスは、「うん」と首をかしげる。
「でも、君たちには関係のない事だよね。
君たち自身には助ける力はないのに、そこのゆうたたま?と私の大好きなルー様に何かしてもらう気なのかな?
それっておかしくなぁい?君たちは何ができるの?
可哀想だから助けるの?
可哀想な人間は沢山いるよ、彼らだけ助けるのは、不公平じゃないのかな?
他の可哀想な人達全部助けるの?
君たちにできるかな?できないよね?」
魔王やルーの力をもってすれば、それは不可能ではなく、かなりの確率で確実に実践可能ではあるが、エルメイロスは言わない。
彼はずるい大人なのだ。
双子をみて、まわりをみて、自分は意地悪に徹しようと決めたのだ。
とても素敵なものを見つけた、けれど磨かないと意味がない!
そう思ったのだ。
だからエルメイロスは双子に促す。
考えろ、自分の答えを導き出して提示しろ、と。
まだ幼い子供には、まだ早過ぎる事なのだが、風の覇王はそんな事は知ったことではなかった。
「たちけててないてるから!たいのーたいのーなの!はやくー!ゆうたたまー!」
「困ったらゆうたたまなの?彼の主人なんでしょ?
小さいからって泣いてて許されるとは、限らないんだよ?」
「ふえ」
「ひう」
「エルメイロス」
ルーがそっと呟くと、エルメイロスは肩をすくめる。
「駄目ですよ、ルー様。
折角の奇跡たる具現の存在を、瑣末な事で振り回される様な事をさせては。
凡百の命にこの涙は重過ぎるのではないですか?」
全く手を緩める気のないエルメイロスに、ルーは溜息をつく。
「気に入ったんだね」
「はい、それはもう」
「「はやくー!!」」
緩やかな天空の散歩はまだまだ続く。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。




