任せるべき相手
主人公格のキャラクターに名前がまだない!
双子の母は生きながら腐っていく呪いをかけられた上に毒を盛られていた。
こんな状態で生きていられる人間がいたのか、と感嘆すらしたが、その呪詛の毒のいやらしさには辟易とした。
虫の息ではあるが、意識もある。
瘴気を発しながら、いつから替えられてないのか、不潔なシーツの寝台に横たわり、刻一刻と迫る死を意志の力で退けている。
王妃の瞳はまだ死んでいなかった。双子の望みを叶えてやれる事に心安らぐのを感じる。
よくよくと王妃の状態を観察して必要な処置を頭の中でまとめる。
解毒と解呪、そして癒し、いや復活魔法か。
これは骨が折れるが、仕方あるまい。
「おかかたま〜」
「おかかたま、ゆうたたまきたの、なおるの〜」
双子は俺にしがみつきながらも母を呼び泣くのを我慢している。俺は一番効率の良い方法を選んだ。
「天冥の星よ応えよ、我が声に応えよ、復活と祝福たる天の意志よ降りよ。姿現せ、今ここに」
骨が折れるなら、俺よりもそれが得意な者を呼べば良いだけのこと。
王妃の寝室の天井が空間ごと裂けてまばゆい光と無数の花々がどこからとも無く現れて咲き誇り香りを撒き散らして強制的に場を浄化していく。
派手だな。
光源はより強くなりここではない世界から、王妃を一番効率よく回復させることの出来る者を降臨させた。
「ぞんざいな召喚だと思えば、君か。狭いね、ここ」
「羽が邪魔だ、しまえ」
部下ではない。古い馴染みの者と言うのが相応しいか。
「ルー、早速で悪いが、その人間を全くの健康体にまで癒し戻してやってくれ」
王妃を指して言えば、嵩張る幾対もの羽をしまい終えたルーは俺の抱える双子の方に興味を示した。
「へえ、可愛いね。産んだの?」
ああ、そうだこいつは、こう言う奴だった。
産ませた、ならまだしも、俺が産むわけ無いだろう。
俺の無言の抗議を知ってか知らずか、ルーは金の瞳に双子を映し、そして王妃を映す。
「うん、良いよ。
後でその子達抱っこさせてね」
にっこりと曲者臭しかしない笑顔を見せて、俺の依頼通りに王妃の解毒と解呪と復活を施してくれた。
俺がするとなると幾つかの術を掛け合わせる手間があったが、やはり神聖の本家本元専門家は仕事が早いな。
ルーがふわりと片腕をあげて王妃に向けて手を翻せば、空間に柔らかい光が生まれ溢れ出て、それが無数の花々を咲かせていく。花は薔薇。香り高く咲き誇れ場散り、散った花びらは王妃の体に溶けて消えていく。
「酷いね、女性に体を腐らせる呪いなんて、ね。父さんへの冒涜だね。
命を生む奇跡を成せる者を壊そうなんて、醜悪な事を考えるものがいるのか、ここには」
「おかかたま〜」
「おかかたま〜」
双子は泣くのを必死に我慢しながら、俺の腕の中で王妃を見守る。
ルーは、そう言えば無類の女好きだった。
そうか、人間もその範疇であったのか。今この時まで知らなかった。
「急激に戻すと返って負担になるから、完全に健康体に戻すのはこのまま丸々三日ほど時間かけるよ。
その方が綺麗に回復するよ」
「そうか、ならば頼む」
ルーは微笑む。
「頼まれた」
ゆったりとした口調で応えて、そして双子に視線を落とした。
「君たちのお母さんはあと少しここでネンネだよ。
でも、もう痛く無いし辛く無いよ、もう大丈夫だからね」
子供に向ける笑顔も胡散臭い。
しかし俺の主人たちはそんな事はどうでも良いのだろう。
最大の目的の母の救済がなされたのだ、我慢していたのが切れてしまった。
「う、うぇ、え、え、うぇあああぁ〜ん!おか、か、た、ま、あ、あ、あ!」
「ふえええあああ!!おかかたまー!
うぇあ、あ、ああああ〜ん!」
盛大に泣き出した。
「よしよし、大丈夫大丈夫。
ルーが君たちのお母さんをちゃんと治してあげるからね。
おいで、ルーが抱っこしあげるよー。
良い子だねー」
と言いながらさらりと俺の腕から双子をさらう。
「おい」
俺の主人だぞ。しかも、お前、自分でルーとか。何アピールしてるんだ。
「良いでしょー、減るもんでは無いんだから。ねー?
僕はルーだよ。怖かったね、悲しかったね。よく頑張った良い子達。
ルーが君達にご褒美をあげよう」
わんわん泣き叫ぶ双子たちの頭や額に、ルーは優しくキスをする。
「君たちの存在に、君たちの魂に、僕の全てを捧げよう。
僕を受け入れて双極の天使たち」
「お、おま!?」
「君だけこんなに可愛い子たちとずっと一緒なんて許さないよ」
俺にあからさまな挑発の視線を向けてくるルー。
お前、子供好きだったか?
まさか、そんな幼児まで守備範囲とか流石にそれはないだろう。
無いよな?
書きたい方向になんとか進められている、はず!
楽しんでもらえる小説を、楽しんで書こう!をモットーに進んでいきます。