おでかけ その6
今日はいくつかあげます。
視点変わりまくります。
「殿下、どうか生きて下さい。
あなたが皇帝になられる時に、お側に仕えることが出来ぬ不忠をお許しください」
クリストフは強く強くフランネイルの右手を、自らの両手で強く握りしめて呟いた。
額をそっと重ねる。
フランネイルより二つ年上のクリストフはそっと神に祈る。
神など、信じていなかった。信仰よりも現実的に必要なものはもっと多くあると、幼いながらもずっと思って来たが、自分の裁量をはるかに超えてしまう現実を突きつけられた時、祈ってしまうのだ。その心を知った。
それは縋り付くものではなく、希望を失わないために、自分が崩折れてしまう事が無い様に、鼓舞する為に祈りがあるのだと知った。
(神よお救いください。
我らをどうか立ちはだかる絶望から、悪意から、お護りください)
クリストフは、涙が流れない様に歯をくいしばる。
フランネイルは静かに一筋の涙を流した。
緋色が二人を照らす。
追っ手が焦れて火を放ったのだろう。
早くフランネイルの手を離さなければ火が回ってしまう。クリストフは涙で濡れたフランネイルの頬を撫でる。
「お元気で」
くるりと背を向けたクリストフを見つめて、胸が潰される苦しさを味わう。
フランネイルは、三人の生き残った孤児達とその場を走り去る。
言葉はかけなかった。
かける言葉が見つからなかったのだ。
死なないでくれ!
そう叫ぶ事がどんなに残酷なことかを理解していたから。
火の手から遠く遠く離れていく。
クリストフの稼ぐ時間を無駄にしてはいけない。
森の奥深く、そして森の向こうへ。
そうすれば活路は見いだせる。
そう信じて走るしか、もう術はなかった。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。




