おでかけ その5
自分でも分かってる。子供に酷いことしすぎてる。
衣服の交換と二手に分かれる提案は、フランネイルを生かし逃がすため。
少しでも可能性を大きくするために子供達は知恵を絞り出す。
悪意の大人の恐ろしさを知る子供もいる。できることの全て最善を尽くさないと、焦りと恐怖と不安と、けれどもそれらに囚われてはいけないと、必死だった。
孤児たちだけではなく、フランネイルもクリストフもだ。
大人達が居ない、信用できない、自分達で活路を見出すしか無いのだ。
「ふ、二手じゃなくて、三手にしよう。ここ、地下室あるから」
廃墟群は、何十年か前に打ち捨てられた村の跡だと言う。
数ヶ月前に集められて来た子供達が、食料調達や遊び場の拠点として居た。
教会からも離れているし、森のまだ入り口からは遠く離れてはいないが、森の一部になっているので見つかりにくい。
「地下室に、もう一つ貯蔵庫を掘ってるから、皇子様達はそこで隠れて下さい」
「なら、私たちと年少の子供達も一緒に。あまり走り回れないだろう」
クリストフの言葉に少年は頷く。
「申し訳ありません、お願いします。
お前達、泣くな、死んでも泣くな。神様がきちんと見ていてくださるから頑張ろう。皇子様達を守るのはお前達なんだからな」
まだ五つにも満たない子供達は総勢で5人いた。
地下室のさらに奥底の、子供達の手で掘られた貯蔵庫は、フランネイルとクリストフ、そして小さな子供達でぎゅうぎゅう詰めになった。
フランネイルの服は二人の体格の似た少年が着た。
これも孤児達の提案だ。
片方が違えば、もう片方と追うだろうから、と。
フランネイルは無力感に苛まれるが、今自分に最大に出来ることは、生き残る事だと肝に銘じる。
(絶望も後悔もいくらでもあとですればいい!)
白くなるまで強く握ったフランネイルの手をクリストフが上から強い力で握り込む。
孤児達は命を捨てて自分の命を繋ごうとしている。それに報いるため、王族として間違わない選択をしなくてはいけない。
分かれる前に少年達に名前を聞いた。
困ったような表情が複数返って来たが、一人だけ教えてくれた。
「フランシスです。
おれ、わたしはあなたのお母上の温情で三人兄弟路頭に迷わずこうして国の為に働ける知恵と力を得ました。
恩を受ければ返せる人になれ、神に救われたなら世界に尽くせる人になれ、そう教わりました。
ここのみんなはあなたのお母上の政策で救われたんです。
だから、こうするのが正しいとみんな自分で選んでます。
どうか必ず生き残り、逃げ延びて下さい。
あなたの道行きに幸多からんことを…」
力強さと、そして拭い切れるはずもない儚さで言い切ったフランシスは、声音にも表情にも迷いはなく。
暗く閉ざされた地下貯蔵庫で、フランネイルは祈った。
儀礼的な祈りしかしてこなかった。
しかし今、本気で神に祈る。
どうか神よ、あなたの子らをお救い下さい、お護りください。
真に心優しき賢い子らをお助けください。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
もう少し、おでかけ続きます。




