訳知りの風
新キャラ出ました。
エルメイロスは風の覇王だ。
間近で姿を見るのは俺も初めてだ。
風の気質はどこまでも自由で序列に関する感性が無いに等しい。自分が認めたものにのみ靡く。しかしその気質も気まぐれの極み故に、付き合い辛い種族だ。
ルーは気に入られたか。
「おにに?おねね?」
「おににたん?おねねたん?」
メルとネルがエルメイロスにトテトテ近づく。初めて見る相手に興味津々だ。
男女の区別がつかなくて戸惑いのまま尋ねただけなのかもしれないが。
「エルメイロス、彼女たちは僕の奥さんたちだよ」
ルーが主人たちを紹介すると、二人はスカートの端をつまみ持ち上げて軽く会釈する。最近おぼえたての新しいあいさつだ。
「メーねー、メルいうのー」
「ネーもねー、ネルなのよ」
賢く自己紹介が出来た。
「ご丁寧に奥方様方。私はエルメイロス。風の覇軍を率いる王」
にこりと笑い挨拶をするが、その瞳は笑みに彩られていない。
品定めをする様にジッと見つめるが、ふと表情が和らぐ。
「なるほど、あなた方がそうであるのか」
近くメルとネルの手を取るとエルメイロスは笑みを深くした。
「私の眷属の運び手が、あなた方の御母堂より命令を賜りまして。
こうしてお会い出来る日が来ようとは!」
メルとネルは、キョトンと首をかしげる。
「「おかかたま?」」
エルメイロスは更に笑みを深めた。
「いいえ。トランの新女王のエスレッラ様ではなく、あなた方様をお産みなられた方のことですよ」
「「????」」
「風は何でも知っているのですよ」
そう、風は、そうなのだ。
どこにでもいて何者にも縛られない。しかもかなりの情報通で大の噂好きだ。
ルーの父の役割に関して、伝令を司る。
全ての存在神も悪魔も世界や次元を隔たれる事なく飛び回り、噂や言伝を運んでいく。
それは噂だけではなく、あらゆるものも。
「なんでも?」
「はい、何でも、です」
エルメイロスの視線が俺に向く。
「あそこの怖い怖いお方様の、たーくさんあるお名前の殆どや、ご契約の事も勿論知っておりますとも」
「「しゅごーい!」」
メルとネルは小さな手をパチパチ叩く。
「ゆうたたまおにゃまえたくたんありゅの?」
エルメイロスはゆったり笑う。
「あのお方様は、古の者の一つ。どの名も軽々しく音にすら出来ぬ大層なものばかりなのですよ。
現にあなた方様へ名前を明かしておりますまい?」
ふーん、とメルが興味なさげだ。
名前がたくさんあると言う事自体が、よく理解できていないのだろう。
「ゆうたたまはゆうたたまだよ!」
ネルが元気よく声を上げた。
「ふふ、お元気ですね。
さてルー様、私は何の役目で呼ばれたのでございましょうか?」
少年とも少女ともつかない妖艶な美貌が深く微笑む。
ともすれば、ルーを誘惑してやろうとする意思すら感じ取れる。
しかし、ルーは涼しい顔だ。
見目麗しいものは見慣れているのだろう。
「そう言う顔は、僕にではなく父さんにしてあげるとよろこぶよ、きっと」
「ふふ、お戯れを」
「本気なんだけどなあ。まあ、いいや。
エルメイロス、僕たちを君の風で安全に確実に目的地まで運んでくれないかい?
勿論帰りもこの城のこの場所まで、運んでもらうことも含めてね」
「承りまして、いついかなる時もどこまでも」
ゆったり微笑む表情は、幼さのわずかに残る造形に凄みが増した。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
決めたところまで中々書けないです。




