無垢なる尊さ
可愛い可愛い女の子と、それに翻弄される魔王が書きたくなって書きました。
連載に挑戦!
更新頻度は不定期になるかと思いますが楽しく書くことを目標に書いていきます。
筆のおもむくまま、お付き合い頂けますと幸いです。
久方ぶりの召喚に俺は心踊った。
この俺を。魔の深淵そのものの悪辣を極めた魔王たる俺を召喚する程の存在があったことと、何よりも、久方ぶりの人間の世界だ。
何度目かの阿鼻叫喚の地獄絵図を作ってやろうと喜び勇んで召喚魔術に応えた。
そう、そこまでは良かったのだ。
このまではな。
「ゆうたたま!ゆうたたま!おかかたまをたちけてくだしゃ!」
「おかかたまたちけてくだちゃ!たちけてくだちゃ!ゆうたたま!」
応じて現界したそこには、双子の幼児が涙をいっぱい大きな目に溜めて、俺を勇者と呼んだ。
言葉もまだはっきり喋られぬ程の幼児だが、白銀の艶髪とまた人には稀な七色の虹彩の瞳。双子からは並々ならぬ魔力と存在感を感じる。
この俺を召喚するに足る大いなる魔力だ。こんな年端もいかぬ幼児が、おしめも取れてないだろう幼児がまさか、な。
驚嘆と賛美を送ろうと口を開きかけて気付く。
召喚者たる双子は首輪手枷足枷、そしてその足元の魔法陣には生贄を表す表記がある。
双子の魔力の膨大さにそれは機能しなかったようだが。
そして更に、俺は気付いた。
双子が泣きながらお漏らしをしている。
「お、親ー!!!!!!」
慌てて叫んでしまったのは無理もない。
女児だ。
一目で身分卑しからぬ事は見て取れたが、明らかな不自然さで虐待の痕跡がある。
俺は、頭のめでたい博愛主義者や平和主義者や無謀な勇者気取りを絶望にたたき落とすことが至上の喜びだが、真実無垢なものを汚す趣味はないのだ。
俺は真実を愛するが故の悪辣を極めているのだ。
だからこそ、目の前の真に無垢な双子を賞賛しようとしたのだ。
が、同時に無垢なる乙女のおしめを替えたことなどない。
乙女というには些か以上に早すぎるのは承知だが、だが!
できぬものはできぬ!
「親は!お前たちの親はどうした!
いや、ここは乳母か?お前たちの世話をするものはどうした?」
「ふ、ふえ、ふえぇ〜ん。ふえ、うぇええぇえ〜」
「えぅ、うぇえ、え、え、え、ふぇえ〜ん、え、え」
双子が本格的に泣き出した。
人間の年の頃なんぞ良くは分からんが、5つは明らかに数えていないだろう。それくらいは俺でもわかる。
「おかかたま、うぇ〜ん。おか、おか、たま」
「た、たちけ、おか、たま、しんじゃ、う、う、うう」
うおおおおおおおお!
天使が泣いているではないか!
天の御使である天使ではない、神の寵愛を一身にうけた無垢なる天のそれを目の当たりにしている。俺は確信した。
そうだ何を悩むことがある。
慌てることがある。
不穏な背景のちらつく召喚ではあるが、俺を正当に召喚したのはこの双子である事が何よりも重要な現実だ。
ならば俺のする事は決まっている。
「小さき双極の主人達よ聞け!
我はお前たちの望むままに在ろう。お前たちの望みを全て叶えよう。
我が力我が存在をその魂との契約を持ってお前たちに捧げよう。
我を受け入れよ!」
「ゆうたたま!うぇ、ぇ、うけ、れる!ゆうたたま!」
「ふぇえ、うえ、ん、うけい、れるのー!ゆうたたま!」
たちけてくだしゃあああーん!
と泣きながら双子は俺と契約を果たした。
魔力の風が俺たちを包みその魂に見えぬ永遠の契約が刻まれた。
魂と深いつながりが生まれた事により、双子の記憶が意識が流れ込む。俺のものも僅かながら双子に流れたであろうが問題はない。
この契約は神聖で重要なものだ。
婚姻の契約は確かに結ばれた。
落ち着け!
俺はロリコンではない!決してな!
大事なことなのでもう一度言う。
俺はロリコンではない!
だが、この双子は稀有な存在である事は間違いない。その身その魂に内包された魔力の膨大さだけではなく、どこまでも澄んだ存在である事がうかがい知れる。
なれば、手放す事は選択にはない。
きちんと養育し教育し守らねばならぬ。助けねばならぬ。
劣悪なこの環境と下劣な人間どもから。
「さあ来い。お前たちの母はどこにいる?助けてやろう」
双子を抱き上げると同時に手足の枷と首輪を焼き尽くした。双子の肌にある傷も癒してやろう。
「ゆうた、たま、ごめ、なしゃあ。おちっこ、ちたの、ばっちい、のー」
「めーなの!ばっちいのー」
恥じらいながら双子は訴えるが、気にならん。
そもそも何処ぞ城の地下施設の様だが、俺が呼び出された術式を起こした場所は衛生的に良い場所では無いのが見て取れる。
掃除してないどころではない。
死臭が満ちている上に、双子はもうまともに世話をされていない。
後で風呂だな。
契約を結んだ時に見えた双子の記憶。
ここは双子の父王の治る城。しかし、アンデッド蔓延る魔城と化している。
父王は亡者として傀儡になり、母王妃は病床。
国はネクロマンサーに乗っ取られた、か?
幼児の視点の記憶だ。断片的ではあるが予想を交えつつ目の前の状況と照らし合わせつつ確認する。
「ふむ、そしてそこの隠れてるお前、お前がこの国の聖騎士長兼神官長か?
双子に枷をつけて贄に仕立て上げようとした?」
俺が現界した時から、ずっと様子を伺い姿を隠していたいやらしい視線の持ち主だ。
隠れてるつもりだったのかも知れんが、俺の感知能力は甘くはない。
俺に敵意を向けてくる愚か者には特にな。
「お前、幼児をいたぶるのが趣味か、変態。まあ、神の名前を騙り神聖だの肩書につける奴は大体変態だな、例外は希少種だ」
俺の経験上の見解だ。
地下施設の薄汚い物陰から、また薄汚い老人が出てきた。
目だけ異様に爛々と血走っている。
「生贄とならなんだ、か。しかして召喚はなされた。
貴様は何者だ?」
俺の質問に答えず、自分の欲求からのみ言葉を発するか。
愚か者の典型だな。
「ゆうたたま!ちんかんちょー!ゆうたたまよんだの!」
「ゆうたたま!よべた!おかかたまたちかる!」
双子たちが俺の体にしがみついて訴えている。
「そうだな、俺は勇者だな」
お前たちのみの、な。
「は!?勇者だと?」心底バカにした様な不快な声だ。
双子は王女だろう。不敬だろう。この愚者が。
「多少は魔力があるからと贄にしてやったのに、ろくに役にも立たないか。
ケチな悪魔に騙されたか?淫魔あたりだろうかな?」
双子が俺により強くしがみつく。
「おかかたま、たちからにゃい?おかかたま」
「おか、おかかたま、ちんじゃ、う?」
ああ、俺の主人達が泣く。下劣な愚者の存在によって。
「お前たちの母は救おう。俺はお前たちの勇者だ。
母の所へ案内してくれるな?」
双子は俺を見上げて頷く。可愛らしい。
「あっち!」
「こっち!」
二人が指差す方に歩みを進める。
そして俺は部下の名を呼ぶ。
「ベルデア!」
闇が渦巻き空間を割いて現れた俺の腹心。
「我が君」
膝をつき頭を垂れる。
「この城のゴミを掃除しろ。汚れはいらん。あと風呂の用意をしろ。この子達を洗う。
子供の養育に必要なものを全て揃えろ」
「御意」
ベルデアの言葉と共に、変態神官が音も無く霧散した。
仕事が早くて何よりだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
魔王と名前も双子の名前も出せてないのに、魔王の腹心の名前は出ましたね。
次回、双子と魔王の名前も出せればと思います。
今後とも、どうぞよろしくお願いします。