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プロローグⅦ
これが三度目の正直というやつだろうか。
いや、何か違う気もする。
ニヤニヤイケメン野郎の発言に
一枚座布団をとられた俺は、
座布団を取り返すべく
ニヤニヤイケメン野郎に負けないくらいに
ニタニタ顔で優しく語りかけた。
「手すり?
必要ない。俺は座っているからね。」
この一言は
座布団を取り返すどころか
倍返しに匹敵する。
電車内において、
満員電車を唯一回避できる最も合理的な方法、
それが座席に座るということだ。
座ってしまえば
目的地に着くまではくつろぎ続けることができる。
満員電車の回避法として敵なしである。
唯一警戒すべきことがあるとすれば
隣の座席に座る見知らぬ人が
睡魔に負けて居眠りし、
俺の肩に横たわってくることくらいだ。
美女ならいいが、おじさまの時は
苦痛以外の何ものでもない。
まず、
この返しはイケメン野郎も
想定外であっただろう。
今、ニヤニヤイケメン野郎は
どんな顔をしているのだろうか。
無性に気になった俺は
顔をあげてイケメン野郎に目をやった。