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プロローグⅥ
間違いない。
再び一字一句ど真ん中で聞こえてきた。
それも優しく語りかけるように。
すぐさま振り返った。
満員電車において手すりは必需品そのもの。
手すりがあることで揺れや他人との接触を
緩和できるという心理的安定になる。
なおかつ、
満員の際、男性は痴漢に疑われないように
両手で手すりを持つなんてことも。
繰り返すが、満員電車において
手すりは欠かせないものである。
その上で
俺の心理を完璧に読み取って、
的確な、的確すぎる、
的確にもほどがある語りかけをしてくるやつは
一体どんな・・・
そこには
サラサラヘアーで笑みを浮かべた
甘いマスクにスラ~とした細身の高身長、
同じ男として反射的に目を背けてしまう
イケメン野郎がこちらをじっと見つめていた。
目があったまま
何を言うでもなく
何をするでもなく
数秒の時が目の前を流れた。
そしてイケメン野郎は三度目の
「手すり・・・必要だね」
と目を反らすことなく、
ニヤニヤした甘いマスクで
口調はそのまま優しく語りかけてきた。