第五十話 「来てしまった海」
美名城夏帆の
突拍子のない思い付きと決断力の早さには
まともな返事をする余裕すら与えてはもらえなかった。
結局、海辺に勢いで来てしまった。
しかも美名城夏帆のチャリで二人乗り。無論漕いだのは俺だ。
設置班の人には何の断りもなく
来てしまったが、大丈夫なのだろうか。
夏休み期間中とはいえ、
みんな体育祭に向けて
頑張っているというのに、
ヨット乗りに会いに来るなんて。
絵画班や塗装班のリーダーはもちろん、
看板グループの人にバレたらただごとではない。
この状況は設置班リーダーという
特権の横領にしか感じないが、
何の考えもなくヨット乗りに会いに来たのだろうか?
確か美名城夏帆は言っていた。
俺が忙しいから来たのだと。
「タロちゃん早く!こっちこっち」
俺にはどうやら美名城夏帆の勢いは止められそうにない。
この広い海辺に着いて、はや十分でヨット乗り・・・
詳しくは大海原に掲げるように黄色い帆を張る
ヨットに乗る男性を見つけた。
距離も少し遠くサングラスをしているため
年齢などは見分けがつかないが、ヨットに乗るぐらいだ。
若者だろう。
俺はその若者ののヨットさばきを眺めていると
「おーい、おじさーん」
と大声でヨット乗りに手を振った美名城夏帆。
するとヨット乗りがこちらに気付いて、
「おーい」と返事が返ってきた。
いやいやいや、待て。
おじさんはまずいだろ。
俺の見立てだと若者だぞ。
視力エリートの俺がそう察するのだから間違いない。
美名城夏帆の声量と言動でこちらに気付いてしまったではないか。
やばいやばいやばーい!!