第四十六話 「惚れ惚れ」
「一人で大変でしょ?」
「ええ、とっても!」
「でしょうね。
だから私が来たのよ。
佐藤君の と こ ろ に!」
その言い方、
気を引き締めなければ
ほ・ほ・惚れてしまいそうになる。
美名城夏帆に
いきなり心が読まれた挙句、
手を差し伸べに来た優しさと
そっと包み込む口調に
惚れてまいそうになりながらも
「それはありがたいです」
と感謝の意思を心無い発音で伝え、強気に出ることにした。
これ以上心を読まれてたまるか。
きっとこれで俺に愛想つかしたに違いない。
人気も高く取締役として多忙の中、
わざわざ図書室まで
足を運んで気にかけてくれたのだ。
普通ならば
感謝の一言では物足りないくらいだ。
しかし、俺にはすでに惚れてまいそうなくらい
突然のことで心に余裕がなかった。
こんなところで惚れる惚れないと
煩悩に悩まされている自分が情けない。
気を引き締め直すぞ!!
すると美名城夏帆は笑い出した。
「そんな、真顔でありがたいって・・・面白い!!」
「はぁ~・・・」
どこが面白いのか全く分からない。
でも美名城夏帆は涙目で笑っている。
不思議な感じだ。
俺の言葉がこんなにも先輩と言う人種に
届くとは思いもしなかったからだ。
ましてやあの美名城夏帆がだ。
「ねぇ、佐藤君」
「なんでしょう?」
「佐藤君って友達にはなんて呼ばれてるの?」