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プロローグⅤ
新入生だけではない。
在校生含め
教師以外が同じ制服を身にまとい、
校長、PTA,生徒会長、新入生代表と
当たり障りない挨拶をこなしていった。
狭苦しい体育館の中で一時間にわたる
人生最初で最後の貴重な高校入学式は、
俺にとって実に不毛かつ退屈なものに終わった。
新入生から順に解放されていく。
解放された時は、
まさに都会の満員電車から
何とか脱出かのするように
下車した時の清々しい気分と同じで
「これで俺も晴れて自由の身だ」と
言わんばかりに
一時停止して両手を伸ばし、背伸びをした。
すると
後ろから一瞬だが
「手すりがないのは辛かったね」
と優しく語りかけるような声が聞こえた。
自分の世界に入っている最中、唐突な出来事だった。
俺は自分の世界に入り込みすぎたせいで
満員電車の幻聴が聞こえたのかと冷静さを取り戻そうとする。
「さあ、落ち着こう。
満員電車は俺の心の中の世界だ。
落ち着け落ち着け~!!
息吸って~、吐いて~。もう一度吸って~」
「手すりが必要だ」