第二百八十八話 「鳴り響く心臓の鼓動」
救護室では
鳳凰院透華の受けた傷口の修復と
葵のクナイに仕込まれた洗脳の力を取り出すことに
力が戻った美名城と八千草美悠のバーチャルリアリティを
合わせて使いながら応急処置が長時間に渡り行われていた。
「夏帆、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。もう少しで取り出せそうなのに。」
「そうね。でも夏帆はまだ力が戻ってきたばかりだから
無理しないでね。」
「うん、ありがとう!もう少し頑張ってみる!!」
一方、リビングで待っている八千草と太郎はというと
ウソ・・ダロ・・・
「スーヒー スーヒー」
俺の肩に八千草さんの頭が・・・・
これは
どうやら
寝ているようだ。
口と耳との距離が近いからか、めっちゃ寝息が聞こえてくる・・・
耳元で寝息が・・・
やばいやばい落ち着け俺!!
八千草さんの寝息を聞いて癒やされている場合じゃないぞ。
八千草さん、ついさっきまで話をしていたのに
気がついたらストンッと寝てしまった。
自分の家だからリラックスしているのか、
それとも自分の家によそ者が来ているから疲れていたのか。
いや、よく考えてみれば救護室を心配そうに見ていた。
これだけ処置の時間もかかっているということは
先輩たちもお姉さんもかなり滅入っているだろう。
それをきっと察していたのだ。
今はそっとしといてあげよう。
太郎はそうっと自分の左肩に寄りかかって寝ている
八千草の寝顔を確かめようとすると
「うわっ」
思っていた以上に顔が近いことに驚くとともに一人照れる。
「可愛すぎる!!」
女子への免疫が皆無の空気系な俺にとって
これはハードルが非常にハードルが高い!
大丈夫か。俺のこの超高速爆音な心臓の鼓動が
聞こえて起こしてしまったりしないだろうか。
落ち着け~落ち着け~
空気になるんだ。存在感を消していって・・・
って無理だーーーー!!!!
気付けば
外はもう暗くなっていた。
しかしまぁ~、気持ちよさそうに寝るなぁ~
そろそろこの姿勢を維持し続けるのも辛くなってきたぞー!
どうするどうする俺。
「うぅ」
お、起きたか?
「タロ・・・ちゃん、ありがと・・・・」
え?いや、そんなお礼を言われるほどのことは
「お姉ちゃんたちのことが心配だよね」
そう言って左肩に寄りかかる八千草の方を向こうとすると
八千草は太郎の肩から滑り落ちて膝の上へと落下した。
太郎のひざにうつ伏せで落下した八千草は
「うぅ~」
と小さい声で唸りながら
身体をねじり仰向けになった。
びっくりした太郎は為す術なく、
膝の上で仰向けで寝ている八千草を目を丸くしてじっと見つめ、
さっきのありがとうは、寝言だったことを静かに悟るのだった。