第二百八十一話 「英雄帰還」
突然、体当たりした反動で弾き飛んだ駿と翔。
「大丈夫!?」
慌てて美悠が二人のところに駆け寄る。
「はい、大丈夫です。」
と駿は言って扉の方を指した。
肇たち生徒会の三人も弾き飛ばされた二人に驚いて、
後ろを振り返ると、
シールドを張って開けられないようにしていたはずの扉が開いていた。
「どうして扉が!!」
生徒会の三人は目を丸くして扉の方を見る。
美悠たちも開いた扉を見る。
暗闇の中、誰かがこちらに近づいてくる。
否応までに伝わってくるその気配にみなが身構えた。
そしてその何者かは扉の前で立ち止まる。
ここにいる全員の額と首筋に緊張の汗がにじみ出る。
炎の海は火の粉ではなく波となって扉を襲う。
扉近くにいた生徒会メンバーがとっさにその場を離れて火の波から
身を交わすとその者は、否、その男は炎を片手で取り払い
もう片手で高坂あかねを抱きかかえて現れた。
「あ、あかねちゃん!!!」
美悠は大声で高坂の名を呼んだ。
高坂を抱えた黒髪セミロング、黒い靴、黒いパンツと上着、黒い手袋をした
身長百八十㎝越えの男は美悠へと近づいていく。
そして抱きかかえた高坂を
美悠に直接抱えたままそっと受け渡した。
この時、受け取った高坂をまるで羽のような軽さで美悠は抱えていた。
どうしてこんなに軽いの?
するとその男は何も語らず火の海と化している
扉へと戻っていく。
それをただただ呆然と立ち尽くして見ている生徒会と救助隊
男が扉に手を触れようとした瞬間、
見ていた生徒会ナンバー5の豪と6の杏沙が
「俺たちの邪魔をするな~」
といって男に火の玉を使った攻撃を仕掛けた。
肇はとっさに
「止めろ!!」
と止めさせようとするが、間一髪で間に合わない。
高坂を抱えて現れた男に届いた火の玉の攻撃は
男の身体にたどり着く前に消滅する。
「あちぃーー!!!助けてくれ~~!!!」
気付くと豪と杏沙自身が打ち出したはずの火の玉で燃えていた。
肇は急いで二人に広がる火を消す。
消し去ることはできたが、二人は深い火傷を負った。
男は忽然と火の海の中から現れ、
高坂を受け渡して忽然と火の海の暗闇へと消えていった。
数秒の出来事がいつまでもその場の時間を支配していく。
美悠は涙ながらに
「あかねちゃんの息はあるわ。みんな救出成功よ。」
「はい!!」
駿と翔、他の三人は美悠のもとへと歩み寄り、
あかねが火傷を負いつつも
気絶して寝ているのを見て心から安堵する。
そして救助隊はグラウンドの本部へと戻っていった。
高坂は救護所で休ませることにし、
養護教諭の妹尾先生が応急処置をしたことで大事とはならずに済んだ。
これで救出から救助へと仕事を果たした美悠たちは
海満の英雄とみんなから称えられていた。
「八千草美悠の指揮の下、生徒会に立ち向かい
救助隊の一員らが救助した。命を省みない勇者たち」と。