第百九十三話 「ハート1」
速人
俺は常にフォームにこだわってきた。
世界陸上を見れば分かる。
どの国の短距離選手も、みんな同じフォームで走っている。
陸上の基本は走る姿勢、つまりフォームにあり、
フォームができてないうちにいくら筋力を身につけても意味がない。
走り方が美しい者こそ、脚が速くなる。
ビューティフルラン!略して
ビューランを部員に徹底させてきた。
ただ、今はもうそんなことを気にしている余裕はない。
フォームがかっこ悪くたっていい、
かっこ悪くたっていいから一位で駆け抜けたい。
俺は黄組の代表でありながら、
陸上部員の鏡なんだ。陸上部の誇りを守るため、
一年のサッカー部、ましては帰宅部なんかに負けるなんてことが許されるか。
翔
高坂先輩は俺にとって高嶺の花だった。
同性からも異性からも人気があり
俺にも同じダンスチームで優しく
最後残ってまでダンス練習に付き合ってくれた。
そんな高坂先輩は
「私のタイプ?
そうね~、例えば運動神経がいい人とかかな。
何かに突出している人ってかっこよくみえるものよ♪」
俺はそれを聞いたときから、
必ずこの体育祭で一年というハンデを返せるよう、
目立って高坂先輩から一目おいてもらえるよう、
サッカー部の厳しい夏合宿にも耐えてきた。
サッカーの試合も大切だが、
それはそれ、今は今だ。
一位をとって、駿という男に勝って
高坂先輩に認められてやる!!!
突出しているのはこの俺だー!!