第十話 「俺たちの狙い ~風林火山~」
「では駿殿に代わって拙者が説明申し立て候」
「慣れない言葉使ってんじゃねぇよ。
自分でも言葉の意味把握し切れてねぇだろ。
まぁ、無理だろうが
俺の納得できるように説明してくれ。」
「うむ。駿氏の戦だ、は
まさに読んで字のごとく戦いを示している。」
「何との戦いだよ?」
「夏は様々なイベントがあるが、
それに向けて拙者ら高校生にとって
まず越えなければならないのが、夏期講習である。」
「夏期講習?」
「さよう。
夏期講習は普段の授業の延長線上に過ぎぬ。
そうなると夏期講習に楽しさを見出すのは間違い。
いいか、よく聞くんだぞ。」
孝也の真剣なまなざしに唾を飲み込んで頷いた。
「夏期講習の時間は忍耐で凌ぐ。するとどうなる?」
「夏期講習が終わる」
「夏期講習が終わると?」
「終わると・・・体育祭の準備だ!!」
「太郎氏、珍しく察しがいいではないか。
体育祭の準備だけじゃないぞ。
海でバーベキューしたり
花火を棚に上げて夏祭りに女子たちと一緒に行ったり
なんかしたりすることもあるかもしれない。」
太郎はこの時
体育祭の準備からどうやって
BBQや花火へと話が膨らんだのか
疑問に感じたが、疑問を尋ねると
孝也は興奮して余計に話が膨らむような気がして、
「それがお前の狙いか孝也」
と便乗するのだった。
「否、俺たちの狙いである。
駿氏が述べた戦いとは
以下のことを狙いにとしたものである。」
太郎は孝也の発言の際に、
駿の方へと視線をやると
時々見せる愛想笑いをしていた。
おそらく駿の「戦だ」は
その場しのぎのものだったと俺は察した。
だが、孝也は駿に構わず説明を続ける。
「夏期講習は『守りの姿勢』
静かなるごと林のごとく
動かざるごと山のごとし
夏期講習が終わったらすぐさま『攻めの姿勢』
早きこと風のごとく
侵略すること火のごとし」
武田信玄の軍旗に掲げられる
孫子の兵法『風林火山』が
まさかここでこんな形で使われようとは、
命をかけていった将軍様方に合わせる顔がない。
ただ、半ば強引ではあるが
孫子の兵法を現代の実生活に結びつけようとは、
孝也の策略の才も捨てたものではないと
不覚にも感心させられるものがあった。