第九話
「さて。お仕事お仕事。」
鍛冶場を出た俺は早速、今朝受けた依頼を達成すべく街の外へ向かおうとする。
「お仕事って何するの?」
「えーと・・・Eランクのゴブリンとなんだっけか・・・・。」
「ワードッグね?」
「そうそう!それを討伐しに行くんだよ。」
危ない。というかそういえばゴブリンとワードッグどこにいるんだ?
「あたしも手伝ってあげるよ!」
「願ってもない申し出だがリーナは仕事とか大丈夫なのか?」
「さっきパーティ抜けたばかりで暇だしね。お礼も兼ねて付き合うよ。」
「そういうことならお願いしようかな。」
そんなわけで臨時で仲間が増えた。
「決まりね。じゃあ行こう!」
腕を取って歩き出すリーナ。俺はリーナの予想外の行動に慌てたが顔には出さず(当然出ていた)一緒に歩き出した。
「ところでゴブリンとワードッグってどこにいるんだ?」
「南の森よ。もしかして行ったことないの?」
「さっきも言ったけど昨日冒険者になったばかりだからね。」
「それでどうやってEランクになったのか気になるけど聞いたらまずいのかしら?」
さて、どうしたものか。特に隠す必要はなさそうだが問題はないだろうか?ないな。
「ちょっと希少な素材を偶然手に入れてね。それを納品したからだね。」
「ふーん・・・まあ強さはさっき確認したし、それなら特に問題なさそうね。」
「まあ装備も更新できたしね。それじゃあ悪いんだけど南の森に案内して貰って良いかな?」
「ええ。それじゃあ行きましょ。」
森というから木が密集していて迷ったわ遭難する可能性すらあることを想定していたのだが、実際は道もありそこそこ見通しも良い。林道を歩いているような気分で歩いているところでリーナから声がかかる。
「ここから森に入るわ。はぐれないようについて来てね。」
森に入ってしばらく歩いて気づいたが、これは初期装備の靴だと相当歩きにくかったに違いない。
不慣れな人だとデコボコや木の根につまづいて転びまくること間違いなしだ。ちなみに俺は2回転んだ。
「止まって。」
リーナの指示に従って止まる。
「あそこにワードッグがいるわ。」
見えない。どこだろうと探しているとずっと離れた木の隙間に犬なのか猪なのか狼なのか分からない生き物がいた。
「見つけた。あいつがワードッグなのか。」
「そうよ。追い詰められると仲間を呼ぶから注意してね。」
見つからないように静かに近づいていくリーナの後についていく。はっきり見えるようになったところでリーナに止まってもらう。しかし、あの距離でリーナはこいつを発見できるのか。
「少し待ってくれ。もう少し観察したい。」
そう言ってワードッグに対して魔物鑑定をしてみた。
ワードッグ
LV3
HP65/65
MP20/20
力17
敏捷38
防御14
魔力12
弱い。LV3でこれならそこそこなのかもしれないがそれにしても弱い。
だがGランクが採取でFランクが恐らくスライム討伐であると考えれば妥当なのかもしれない。
まあ警戒には値しない敵だと分かったのでとりあえずサクサク倒すことにしよう。
「お待たせ。もう大丈夫だ。行こう。」
「トオルの強さなら全く問題ないと思うけど、一応背中は任せて。」
はい。全く問題ありません。でもお願いします。
「ああ。よろしく頼むよ。それじゃあ行くよ。」
そう言ってワードッグに走り寄る。
「グガアァァ。」
ワードッグもこちらに気づいて駆け寄ってくる。
ステータスで敏捷が一番高かったので速度タイプなのだろうが、俺より遥かに低いのでやはり驚異には感じない。
そのまますれ違いざまに斬り捨てた。
ドロップのコインをしまい、リーナのもとに戻る。
「さすがね。ワードッグなんて相手じゃない感じね。」
「まあそうだな。確かに弱く感じた。」
「それならわざと弱らせて仲間を呼ばせて倒すと良いわ。いちいち探し回るのも大変でしょう?」
ああ、そういう手があったか。俺としたことが戦闘に舞い上がっていてゲームのプレイ法にまで気が回らなかったようだ。
「そうだね。その方が早く狩れるし次からはそうしよう。すまないがもう少し付き合ってくれ。」
「勿論良いわよ。それじゃあ次のワードッグを探しましょう。」
次はすぐに見つかった。ここらがワードッグの狩場なのだろう。
「じゃあわざと呼び寄せながら狩るから・・・リーナはどうする?」
「あたしも戦うわよ!背中は任せて!」
リーナがどの程度戦えるのか不明だがやばそうなら俺が頑張ってタゲ取りをしよう。壁役なら自信あるしな。
「じゃあ行くぞ。準備は良いな?」
「おっけ~。行きましょ。」
さっきと同じようにワードッグに駆け寄る。向こうもさっきと同じように気付きこちらに突進してきた。
ここで俺はさっきよりだいぶ手加減して剣を振る。感覚としては4割くらいの力だろうか。
その結果・・・・コインが目の前に落ちていた。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「えーと・・・ワードッグを集めるんじゃなかったの?」
「すまない。手加減が足りなかったらしい。」
本当に手加減はしたんだ。まぁ自分のステータスを把握出来ていない俺が悪いんだけどな。
「本当にすまない。次はもっと上手くやるから。」
「まあ仕方ないわね。次へ行きましょ。」
そうして次を探すことしばし、リーナがワードッグを発見した。
索敵スキルとか持ってるのかな?と思いたくなるほど敵の発見が俺より上手い。
「それじゃ行くよ。」
「良いわよ。今度はちゃんと手加減してね。」
分かっている。俺にも考えはある。
そうして三度目のワードッグとの衝突。
俺は剣を使わずにワードッグの噛み付き攻撃に対してカウンターでパンチを放った。無論手加減をして。
俺も腕を噛まれたが、痛みも感じないという事はダメージなどほぼないだろう。対して向こうは吹っ飛んだから恐らく良い感じにダメージを与えられたのではないか。
「アオオオオオオオオオォォォォォン!!」
ワードッグはふらふらした様子ながら雄叫びをあげた。仲間を呼んだのだろう。
「成功ね。手加減しながら繰り返して集めるわよ。」
「了解。」
俺は素手でワードッグを小突き回してガンガン集めて狩っていった。
多少心配だったリーナの戦闘だが、全く心配はいらなかった。リーナは右手にハンドアクス、左手にショートソードの変則二刀流スタイルだった。
ショートソードを盾の代わりに使い、上手く削りながらハンドアクスでトドメをさしていく。
これならリーナ1人であの3人倒せたんじゃないか?
そんな事を考えていたら足が動かなくなってしまった。下を見てみると、ワードッグが両足にまとわりついていた。
よそ見をしていたら両足に噛み付かれてしまったが、盾と拳で殴り飛ばす。
クエスト達成 ワードッグ5/5
突然ウィンドウが空中に現れ、クエストを達成したことを教えてくれた。
クエストを受けていると達成したら教えてくれるのか。こいつは便利だな。
「そろそろゴブリンに行こうと思うんだけど良いかな?」
ワードッグを殴りながらリーナに声をかける。
「分かったわ。それじゃ全部倒しちゃいましょ。」
リーナの承諾が得られたので剣でワードッグの群れを一掃する。
いつも通りコインが落ちていた。だがそれとは別に毛皮も残っていた。
一応アイテムボックスで確認してみる。
ワードッグの毛皮 家具や防具なのど素材
まあそうですよね。だけどなんかもうちょっと他に説明なかったのかな。
「毛皮が出たんだけどリーナいる?」
「良いの?お父さんにあげたら喜ぶわ。」
「そういう事ならどうぞ。」
アイテムボックスから取り出してリーナに毛皮を渡す。
道案内に索敵までしてくれたんだ。価値は分からないけどワードッグならいくらでも倒せそうだしな。これで喜んでもらえるなら安い物だろう。
「じゃあ次はゴブリンか。リーナ、ゴブリンのいる場所は分かるか?」
「勿論!こっちよ。」
打てば響くようなリーナの返事を聞いて、道に戻りしばらく進んでからまた森の中へと入っていく。
道中で草木が気になったが、薪割りクエストや採取クエスト等があれば効率を無視していずれやってみようかなと思うほど森は綺麗だ。
「トオル。いたわよ。」
俺がのんびり自然を楽しんでいたらリーナがゴブリンを発見したらしい。ちょうどいい事に5体まとまっている。早速魔物鑑定だ。
ゴブリン
LV5
HP100/100
MP30/30
力22
敏捷20
防御18
魔力16
やはり警戒の必要はなさそうだ。こいつらもさくっと倒してしまおう。
「あれがゴブリンか。さっさと倒してしまおう。」
「一応背中は守るけどまあ必要はなさそうね。」
まあないだろう。だってもう全部コインになってるし。
クエスト達成のウィンドウを確認して、リーナに声をかける。
「これで今日受けたクエストは全部達成出来たよ。ありがとうリーナ。」
「じゃあ街に戻る?」
「そうだな。今日は色々やれたしもう戻ろうか。」
帰り道でリーナから聞いたのだが、街に戻る時に門番に冒険者ライセンスを見せると入場料がかからないらしい。ギルドで説明はなかったよな?それくらい自分でNPCに聞けということなのだろうか?実に不親切である。