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また逢う時まで

作者: 宮野 朱夏

どこからか、笑い声が聞こえてくる。

周りに転がる紙切れを見てなのか。

床に散乱している酒瓶を見てか、それとも。

情けない僕を見てなのか。

窓から差し込む光に顔を歪めるが、誰も見てもいない。

朝が嫌いだ、希望を押しつけられてるような気がする。

こんな汚い部屋でも花と写真だけで随分も格好が良くなる。格好が良くなっても見てくれる人もいない。哀しいものだ。

「…君がいたら…なんていうかな。」

話したい人もいなければ口から出た言葉は。

ただの独り言だ。独り言をぶつぶつ言う人はきみが悪いと言われるだけだ。

目を閉じると1人だという事を忘れてしまいそうになる。

朝は嫌いだけど、太陽は好きだ。

当たっているだけで、満足感を得られる。

心地よいが良いと眠気が襲ってくる。

「…そうだ…ほとんど寝てなかったな…。」

寝なくてはもたない、と思い頭を動かす。

ちょっと動かしただけなのに、傷があるような痛みと目が回るような感覚が僕の頭にあらわれた。寝てしまえば、全てが無くなる。

瞼をそっと閉じ。クッションを枕にそのまま眠りについたのだ。



視界はまだ暗く、何時間たったのかも分からずに瞼をあけるのも億劫だ。まだだ、まだ、

この揺れるような感覚。酒が残っているのか。それにしても結構揺れるな。

「…ちゃん…よ…ちゃん。」

聞いたことあるような声が、遠くから聞こえてくる。その声はだんだん近くなってくるような気もした。

「…よし…よしちゃん…。」

なぜだろう、懐かしい。そんな気持ちでいっぱいだ。『よしちゃん!!』至近距離で強く発せられた声に驚き不意に体を起こす。

いきなり起こしたものだから、まだ残っているアルコールの痛みと気持ち悪さが僕の頭をぐるぐると馳け回る。思わず頭を触る。

「あっ…つぅ…いたっ…。」

隣からくすくすと笑い声が聞こえてきて、頭にある僕の手を優しく包み込んだのだ。

「もう、こんなに沢山散らかして…呑みすぎはだめってお医者さんに言われてるでし。」

「あっ…あぁ…そうだったな…」

「それにそこまで呑めないでしょ?。ちゃんと体大事にしてね」

長い長髪を揺らしながら台所に消えた彼女は

鼻歌を漏らしつつ洗い物を始めた。

華奢な脚、透きとおるような肌。どれもこれも見覚えがある。まるで昔みたいだ。

「ねぇ…よしちゃん…私ね…言われちゃったの。」

「…まさか…子ども…」

水の音と混じって、笑い声が僕の頭にささってきた。笑う要素など何処にも無さそうなのに。

「よしちゃんたら、何言ってるの?。違うわよ。」

「そ、そうだよ…な。」

軽く頭をかいて重くなった頭をなんとか持ち上げる。一瞬焦って冷や汗を書いたのは言わないでおこう。

「私ね…あんまり居られないみたいなの。今日は病院で先生とそういうお話をしてきたの。」

寂しそうな彼女の声が重くなった頭にさらに乗っかってきた。なんて言えばいいのか、すぐに返すこともできずに無言の時間が続いた。言う言葉も見つからないなんて、大人失格だ。

「…よしちゃんは…これからどうするの?」

「どうする…か…」

水が止まる音が響き、少し体がびくっとした。「あのね…ごめんね…迷惑…かけちゃって…これからはもう…迷惑かけないからね。」

「迷惑なんて、かけられてないよ!」

静まり返った空間に響いたのをつい、出てしまった強い言葉だけだった。

すぐに気づいて何か言おうとしたが言葉が浮かばない。

こんな時はどうしたら。

「体大事にしてね、それに掃除もちゃんと…あと…ご飯も。」



弱く発せられたその嗚咽まじりの言葉に

何もできず、何も言えず。せめて。近くに行って安心させなくちゃ。腰を上げて彼女の元に行こう一歩進むと視界が揺れ、歪み出した。

「な…あ…ま、まって…。」鮮明に見えている彼女の姿が白く濁っていく。「…紗枝…お願いだ…まだ。」まるで照明が落ちたかのように視界が暗転し。僕はまた暗闇の中を彷徨っていた。誰もいない空間で名前を呼び続ける。そこには、懐かしい姿も懐かしい声も何も聞こえない。

「紗枝!紗枝…!まだ何も…してない…まだ…!。」

気づくと汗を沢山かいて、瞼からも沢山の雫が流れ出ていた。あんなに綺麗な部屋の面影はなくゴミや酒瓶が散らかっている。

いつもの部屋だ。そして、そこには、彼女の姿も、彼女の声も、彼女の太陽のような暖かさもない。さっきよりは軽くなった身体を起して

台所を見つめるが、やっぱりいない。

「ごめんよ…迷惑かけたのは俺の方なのに。」

朧げな脚取りで背広をとり、腫れた顔を隠すように帽子を深くかぶった。

荷物は無くていい、必要なものは何もない。

余計なものはもたず、着替え程度で良い。

独り言にように呟いた言葉を聞くのも僕だけだ。

そして今やることも見るのも僕だけだ。


暗くなった夜道に静かに進む僕はどこに行くのか。それもきっと、いつか、話になる

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