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第1章「根源」

「はい、皆さん?今日は新しく三人の家族が増えますよー?院長先生の周りに集まってくださーい!」

若い女性が小さな子供から、小学生くらいの子供たち全員を集めさせている。

「誰だろうね?」

「ドキドキするね!」

小さな子供たちは口々に喋るが、院長先生と呼ばれる初老の女性が出てくるや否や、子供たちは黙ってその人の顔を見るのだ。

「今日は三人の家族が来てくれました。はいっていらっしゃい?灼祇、壬、綾緋?」

名前を呼ばれた子供たちは、次々と部屋に入ってきた。

「さ、自己紹介してあげて?」

院長先生は三人を皆の前に立たせ、促した。

「俺は灼祇(しゃくぎ)…」

太々しく黒髪の少年は言った。彼の服は少し裕福そうな、綺麗な服を着ていた。なぜ、こんな少年がいるのだろうと、年長の子供たちは思っただろう。

「ぼっ僕は(つぐ)。よっよろしくお願いします!」

深々と頭をさげる少年は、森にでも住んでいたのかというほど、この辺りでは見ない服装だった。

「えへへ♪私は綾緋(あやひ)!皆、よろしくね?」

最後の少女はニコニコと挨拶をした。しかしその服装はボロ切れの様で、顔には痣も少しあり、髪もボサボサだったのだ。

「ほら、皆?挨拶して?」

若い女性は子供たちに挨拶をする様に促した。

「「よろしくね!」」

子供たちは口を揃えて言ったのだ。

そして三人の孤児院生活が始まったのだ。

三人が来て三日が経ったある日、最初の出来事が起きた。

「きゃー!!やめてっ!」

「うるさいっ!黙れっ!!」

女の子と壬が喧嘩をしていたのだ。そして彼の頬には紅い痣が出ていた。

「壬くん?!何やってるの?」

「うるせぇー!」

初日に見せたオドオドとした態度とは一変していて、周りの子供たちも驚いていた。しかしその態度も今度はまた変わるのだ。

「えっ?なっ何?僕、何かしたの?」

またオドオドとしてみせるのだ。彼はどうやら痣が出ると性格が変わってしまうようだ。そして彼は、その凶暴さは全くと言っていいほど、覚えてはいないらしい。彼がここへ来た理由は、この事が原因だろう。この様な凶暴な性格を持つが故に、周りからは恐れられ、どんどんと周りの人間は離れていく。しまいに彼は"バケモノ"と呼ばれていたようだ。実際、ここに来てからも同じ道をたどる事しかできなかった。彼は独りになったのだ。しかし、彼に差し伸べる手はまだ、あったのだ。

「ねぇ、一緒に遊ぼうよ!一人なんかつまらないでしょ?」

綾緋だった。彼女もまた、彼と同じように独りだった。彼女はいつもニコニコとしていて、周りを楽しませ、和ませていた。しかし、彼女は怒ることを知らない。何故なら彼女の育ちが原因だったからだ。彼女は親から酷い虐待を受けていた。彼女はそれが愛だと認識していた。だからいつもニコニコとしていたのだ。泣いたのはまだ赤ん坊の時ぐらいだろう。彼女は「みんなが幸せなら、私は何をされてもいい」とまで思っている。優しすぎるのだ。その優しさが、彼女に"怒る"という感情を教えず、そのままにしていたのだ。

「皆ー!綾緋も仲間に入れて?」

「うわぁ!出たぞ!ニヤニヤ怪人!逃げろー!」

彼女も壬とは違う形で、バケモノ扱いを受けているのだ。それはとても辛い事だと思う。しかし彼女にとってはそんな事はないのだ。ニコニコと微笑み、みんなの後ろ姿を見つめる。その姿を見て他の子供たちは「またあの子笑ってる。」などと陰で口を開き、それは子供たちの間だけでなく、先生の間にも広がった。

「綾緋ちゃん、なんでいつもニコニコ笑っているの?」

「先生?笑ってちゃダメなんですか?私が笑っていれば皆は笑顔でしょ?綾緋は笑ってないと独りなの!」

そうニコニコ笑って彼女は言ったのだ。だから先生たちも何も言い返す言葉が見つからなかったのだ。確かにそれは事実なのだ。彼女が笑ってさえいれば、この孤児院は平和で、世間からの評価も上がっているのだ。大人たちはそう言い聞かせ、それ以上、彼女に何かを聞く事はなかった。

そんな事を知らない壬は、その手がとても暖かく、嬉しかったのだ。そして彼はその手を取った。彼女はニコリと微笑み、

「こっちこっち!三人で遊ぶの!」

そう言って彼の手を引いたのだ。

「ほら、ここ!三人の秘密基地!」

「おい、綾緋…。ここに誰も近づ…」

孤児院の外れ、大きな大木の下にある小さな家から、灼祇が出てきた。彼ははぁと溜め息をつき、しかしその後の表情は、何か嬉しそうだった。

「へぇ、壬か…。ならいいぞ?入れ。」

「え、うん…。」

「ほらほら!ここ、とっても楽しいんだよ?」

三人はこの日以来、孤児院を抜け出す事が多くなった。灼祇はいつもここで何をしているのだろうか…?それは誰にもわからなかった。彼は孤児院の中でも一人大人びていて、誰とも遊ぶ姿を見たことがない。いつも難しそうな本を読み、一人で何かをしている。孤児院の先生たちはそんな彼のことが、少し怖いのだ。彼は何故か先生たちの秘密を幾つか持っている。それをゆすりのネタにして、脅すのだ。なぜ子どもなんかに…と思うかもしれないが、彼は元々裕福な家庭に生まれ、ここの孤児院もその家から援助を受けている。彼が今はもう、あの家と縁が切れているとたとえ頭でわかっていようとも、身体は彼は危険だと知らせてくるのだ。彼の口調もまた、まだあの家との縁を切っていないというような、そんな意味を含めているようで、この孤児院を影で操っているのは、灼祇と言っても過言ではなかった。そして彼は先生を脅し、先生たちに「研究材料だ」とだけ言って、大人にしか買うことのできないような、危ない薬品を購入しろと命令を下す。勿論大人でも危ないのだから、子供には触らせてはならないのだが、相手は灼祇、先生たちは従うほかないと頭ではなく、身体で本能的にわかってしまっていたのだ。

それを知ってかしらずか、綾緋は一人の彼に声をかけたのだ。

「一人じゃ寂しくないの?」

彼は彼女の方には一切顔を向けなかった。

「別に…。寂しいことなんてない。」

彼女と彼が出会ったのはこの大きな大木の前だった。小屋ができたのはその少し後で、勿論彼が先生に作らせたようなのだ。院長先生は全くこのことを知らない。どこまでも用意周到に灼祇が先生たちを、コントロールしていたのだ。

「俺は今日からここに籠るから。もうあそこには戻らない。」

灼祇は独り言のように綾緋に言った。綾緋は何故か彼の元を離れなかった。

「私も!あ、もう一人!壬くんも!」

そう言って彼女は、その後すぐに壬の元へ走って行ったのだ。灼祇は小さくため息をつき、自分の研究を始めた。しかしその時彼の年齢はまだ10歳にも満たなかったのだ。一体、どれほど頭が優れているのか…。疑問に思う者は沢山いたが、誰も聞こうとはしなかった。何故なら、彼ほど怖い存在はここにいないのだから。三人は孤児院を抜け出してはいつもここに来ていた。だんだんとご飯だけを孤児院で摂り、その後はいつもこの大樹の下の小屋で三人で過ごしていた。

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