紅茶と共に
疲れ切って部屋に戻ると、入り口の前でぷるぷる震える長身イケオネェが居ました。
(幻覚でも見てるのかな…?)
何度も目を擦る。目の前の光景は本物だった。
「…可笑しいな、何でレンさんここにいるの?」
問いかけると、レンは頭を抱え、苦悩に満ちた様子で話した。
「エオンっていう騎士の男が……、リオとはどんな関係なんですかって……凄い笑顔で……怖くなって……」
……またアイツか………
リオは本日……何度目か数えるのを止めたため息を吐く。ついに自分以外の人にも被害がおよび始めた。
「それで来た、と……でもレンさん、私の部屋で待ってたら逆効果じゃない?」
レンはキョトンとしたあと、思い立ったように「あ」、と言った。
「まあとりあえず、紅茶でもどう?丁度新しい茶葉が手に入ったところだったの」
「まあ、じゃあいただいて行こうかしら」
先ほどの面影何処へやら。すっくとレンは立ち上がり、リオの後を追って扉を開けた。
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リオはレンの前に前に湯気の立つ紅茶と美味しそうなクッキーを置いた。その何気ない動作にさえ、洗練された無駄のない気品を感じる。
「あら美味しそう。クッキーは手作り?」
「ううん。ほら、城下町で最近話題になっているお菓子屋さん、あるでしょ?そこのクッキー」
「ああ!一度食べたいと思っていたのよね」
……とても女性と男性の交わす会話とは思えない、女子力満載の会話をしながら、レンは紅茶を啜った。
「しかし、エオンにも困ったものだわ……」
リオがその名前を出したことによって、レンが口に含んだ紅茶が危うく無駄になるところだった。噴き出しそうになった紅茶をむりやり嚥下して、レンは死にそうな声で尋ねた。
「エオンって……あの男、よね?」
「う、うん。ごめんね?レンさんにもトラウマ並みの恐怖を植え付けちゃったみたいで……」
「いえいえ、大丈夫よ。でも、確かにあれほどの愛情は….…はっきり言って異常よ。ロマンチックな出会いもなし、それ以前に大した関わりもなし。目を合わせただけなんでしょう?」
まあね、と呟いて、リオは角砂糖を三つ溶かした。
何故こんなに自分は執着されているのか、リオは未だにわかっていない。それだけがただ不気味に見えるのだ。
まあ、あの脳筋熱血騎士様のことだから、運命とかふざけた理由かもしれないが。
……でも、たとえエオンが地の果てまで追ってきて、リオ自身を求めてくれたとしても、リオは決してエオンを、いや、男と深い仲にはなろうとしないだろう。
それほどまでに、リオは男を信頼していなかった。否、できなかった。
唯一心を許せるのは、目の前で呑気に紅茶を啜る、レンだけ。