迷惑な男
ーーーーエオン・レアントルというヤツは愚直で勇猛、情に厚く騙されやすい。おまけに美青年である。絵に描いたような騎士様である。
王立学園を首席で卒業のエリート。常に陽の当たるところを歩き続けたエオンが、どうして自分みたいな影から陽を見ることでしか出来ない者を好きになったのだろうとリオはいつも首を傾げていた。
閑話休題……
・・・・・
数十分に渡るかなり無駄なやりとり(80%はレオンが話していた)の末に、リオは解放された。
「はあ…疲れた…もう面倒なことには…」
ブツブツつぶやきながら自室へと戻るリオを、何時もは嫌悪の目で見てくる宮廷人が気味悪げにチラチラと見ていた。
足を引きずり、死人のように負のオーラを纏ったリオは、たしかに不気味だった。
「ああ、リオじゃないか」
ゲッ
リオは心の中で思わず声を漏らす。何しろ、
声をかけたのは彼女の天敵、大将軍レイト・カッツェだったのだ。大将軍といえば武官の最上位。の割にこのレイトという男はガリガリのヒョロヒョロ。お世辞にも剣を振るうタイプには見えない。おまけに高貴な武人の魂をカケラも感じられない意地悪そうな雰囲気を全身から醸し出している。
(まーた面倒なことに……)
リオの迷惑そうな顔を気にせず、レイトは口を開く。
「丁度、君を探していたんだよ。今、ちと書類が溜まっていてな…」
「はい、わかりました、やっておきます」
半ば反射的に答える。もともと反論の余地なんて無い。雑用はリオの仕事だ。
「用事はそれだけですか?じゃあ帰ります」
「ちょ、待て待て待て!」
一刻もはやく部屋に戻ろうと踵を返しかけたリオにレイトは慌てて言葉を投げかける。
「はあ、何ですか」
「お前、半年後に武術大会があるのを知っておろう?」
ピク、とリオの耳が反応する。初めて知った。
「で、それが何ですか」
「その大会で、増えた武人を淘汰するらしい………どうなるか見ものだな」
つまり、これでリオはお払い箱になれば良い、と。どこまでも嫌味な男である。
「…そうですか。そのほっそい腕で精々足掻いてください。まさか下っ端騎士になんか負けませんよね、大将軍レイト・カッツェさん?」
にや、と笑みを口の端に浮かべてリオは言い放つ。そして顔を真っ赤にした大将軍殿を置き去りにして踵を返して廊下を歩き始めた。
(ちょっと、すっきりしたわ)
しかし武術大会とは楽しそうだーーーー
リオの口には、野蛮さとは正反対な、可愛らしい笑みが浮かんでいた。