騎士エオン
慌ただしくレンが出て行った後、まだうず高く積まれた書類をそのままに、リオはそっと扉に忍び寄った。扉に耳を当てる。
カシャン…カシャ…
この音は間違いなく鎧の鳴る音。つまり…
(扉の向こうには確実にヤツが居る……!)
ヤツ、というのはこの宮廷に勤めている騎士のエオンのことである。
この男、初めて目を合わせたその瞬間に何故か溢れんばかりに目を輝かせ、それ以来リオの周りをうろうろしている。端的に言えば『ストーカー』だ。
顔を付き合わせようモノなら、爽やかかつにこやかな好青年的笑顔で話しかけてくるため(しかも一方的なマシンガントーク)、リオは徹底的にこの男を避けている。過去のトラウマ故に、リオはあまり男性が好きではないのだ。あと明るい人も苦手。つまりエオンはリオの苦手なものの塊というわけだ。彼自身に罪は僅かしか無いが、残念ながら苦手なものは苦手である。
コンマ数秒の思考の末、リオは “部屋に留まる” という手段を選択した。
(長い間出て来なければ諦めるでしょ)
……
…数時間後、彼女はその考えが間違っていたことを痛感した。
(帰らない……だと)
彼の気配は消えるどころか、むしろ距離が狭まっている?そんなバカな。だってもう5半時(5時間半)は放置したはず……!
もうこうするしかない。彼女は意を決して、バタンとドアを開けた。
そこにはパアッと顔を輝かせた背の高い1人の青年が。
「あ!やっと開けてもらえた!もうそろそろ宮廷人の目が痛くなってきた頃だったから…」
「お 帰 り 下 さ い」
扉を開くなりはち切れんばかりの笑顔でペラペラと語り出したこの金髪碧眼イケメンを冷たくあしらい、パタンと扉を閉め……ようとしたが、何故か扉が閉まらない。
というのも、エオンがキラキラした笑みで剣の鞘を思いっきりドアの間に挟み込んでいたのだった。
(この野郎……!)
流石にイラッときて、リオは冷たく、キツーく言い渡す。
「ちょっと、流石に迷惑よ! 私は貴方とお付き合いはしないって何度も……」
「ならば振り向かせてみせる!僕はもう他の人を愛せる気がしないんだ……」
瞳を潤ませ片膝をつき、ドラマチックに語りかける残念騎士エオンの話を聞き流しながら、リオの頭にはたった一文が浮かんでいた。
(駄目だ、こりゃ)