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曖昧恋色Lifes*  作者: 愛流。
2章 過去の記憶。
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会いたかった

そっと口にした言葉はしばらく宙に浮いたままで、目の前にいるカノンには相手にされなかった。

ただ、先程まで動いていたカノンの動作がぴた、と止まっただけで、彼女の口からは何も出てこなかった。


「はは……俺、変わりすぎててびっくりしただろ?」


今度はカノンには向けず、独り言のように地面に言葉を落とす。

ほんと、もしかしたら俺のこともう忘れてるのかもしれないな。

あの頃の自分は、どうしようもな奴だったし、きっとカノンの昔の記憶には残ってないだろう。

沈黙が続いて、俺はそっと顔をあげてカノンの顔色を伺う。


「…………っ!」


黙ったままで気づかなかったけど、カノンは俺の方を凝視していた。

しかしその目は、全く知らない人を見るような冷ややかなものだった。


「私に構わないで、」


ぽつ、と呟かれたその言葉はすごく小さいもので、少しでも音を立てていたら聞こえないくらいのボリュームであった。

が、ここにいるのは俺とカノン。

当然俺の耳には、彼女の声が届いてきた。


「どうして…」

「理由なんて、いる?」


冷たい言葉に俺の心は思いきり貫かれる。

カノン、一体何があったんだよ?

お前、昔はこんなんじゃなかったはずだろ?


「いるだろ!……カノン、俺がどれだけお前に会いたかったか…」



───バシッ



そこまで言い終えると、左頬に衝撃が走る。

思わず頬を左手のひらで抑えて顔をしかめる。


「うるさいっ……もう、やめて」


カノンの手はかすかだったけど、確かに震えていた。

俺を睨みつける目は、俺からしてみれば怖いというよりは……


「……カノン」

「違う、呼ばないで……!」

「違うわけない、お前は俺の知ってるカノンだよ」


相変わらず睨みつけてくるカノンに、俺は真剣な眼差しを向ける。

そうだよ、違うわけないだろ?

だって俺の知ってるカノンは……

カノン………は、





───ふと、ある疑問が頭をよぎる。





「おう、2人とも終わらせてくれたみたいだな♪お疲れ様っ」


その後無言で作業に明け暮れた俺たちは、田端に大いに褒め称えられた。

資料室の窓を見ると、外は淡い橙色に染まっていた。


「先生、」

「ん、どうした?沢城」

「明日からここの掃除になるって、本当ですか?」


すました顔で首を傾げて問いかけるカノンに、田端は軽く頷いて返事をした。


「私、1人でもできるので」

「な、何言って…」


慌てて口を開く俺に、カノンは迷惑そうな表情を浮かべる。

俺は言葉を詰まらせて、言おうとしていた残りの言葉を呑み込んだ。



.



「んじゃ、2人ともお疲れ!明日からよろしくなっ」


キラッと眩しい笑顔を向けて、田端は俺たちに軽く手を振りながら教室へと戻って行った。

カノンは田端が見えなくなるまでその場に留まっていたが、完全に姿が消えた瞬間、スタスタと田端とは正反対の方角へと足を進めていった。


伸ばした手はカノンに届くはずもなく、虚しくもそこら中にある空気を思いきり掴んだ。

と同時に込み上げてく想い。


俺はカノンの後ろ姿を見送ってから、一歩、足を踏み出した。

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