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向井に与えられた能力の特徴は三つ。


一つ、媒体問わず相手の顔を見ればその人物の未来が本人の視点で覗ける。

一つ、覗ける未来の範囲は頑張ればおおよそ一年先、頑張らなければ数十秒先、つまり本人のやる気次第。

一つ、未来の遠さとかかる負荷は比例関係にある。


こんな感じの、レベルで表現すれば3くらいの能力を与えられた向井は本当に占い師をやっていた。

彼の占いのあまりの的中率に多数のスイーツがどっぷりハマり、始めて一ヶ月だというのに恐ろしいほどの利益が彼の元に集まった。その額は実に数百万、西麻布に店を構えても元が取れそうな額だ。

そんなわけで今日の残りは一組、これさえ終われば明日は定休日だ。向井はそう気を引き締める。


「それでは次の方どうぞー」


彼の呼びかけに反応して二人の女性が一緒に入ってきた。

その二人組の姿に向井は思わず目を疑う。

片方は灰色のレディーススーツを着ていた。銀縁の眼鏡をかけ、茶色く染められた髪は頭頂部で団子状に丸められているその様は仕事に生きる女性といった感じだ。

もう一方はとにかく目つきが悪かった。そのせいでせっかくのゴスロリ風の黒いドレスや腰ほどまである綺麗な黒髪も印象が薄くなっている。

どちらか片方だけならまあ許容範囲内だが、この二人が組むとなると明らかに怪しい、怪しすぎる。そんな違和感を感じ、向井は二人の未来を覗く。


「(………あれ、おかしい、こいつらの未来が覗けない。もしかして能力に使用限度とかあったのか?)」


向井が動揺するのもお構いなしに怪しい二人はさっさと座り、目つきの悪いゴスロリ女が向井に話しかける。


「じゃあ早速私から占ってもらっていいですかね?」


「え、ええ、勿論。ではそこにお名前を」


「あら、あなたが相手を見ただけで名前を当てられると聞いてここに来たんですけど、私にはそういうサービスはないんですか?」


「いやいや、そういうわけじゃなくてですね…」


未来が覗けないんですよ、とも言えず向井は言葉を詰まらせる。それを見た眼鏡女が動き出した。


「もしかして……超能力が使えないんじゃないですか?」


「ちょ……な、何故それを?」


こういったやりとりに慣れていない向井は思わずこう口にしたが、これは「自分は超能力者です!」と宣言しているに等しい。

その反応に向かいに座る二人はニヤリと笑う。


「やっぱりそうでしたか。私達、こういう者でしてね」


そう言って眼鏡女は胸元から名刺入れを取り出し、向井の前に差し出した。

なんかエロい仕草だなあ、そんな油断が命取りとなる。


「まだまだ甘いな向井君!!」


眼鏡女のそんな叫びとともに突然名刺が爆発した。

また凛ちゃんのお世話になるのかな、衝撃波で吹き飛ばされた向井は爆発の残滓の中そんなことを考えていた。






「……………………朝か…いや、何処だここは?」


「ここは私の家だよ」


向井は何処かで聞いた声に驚いて飛び上がる。

気がつけば彼はいかにも高そうな黒張りのソファの上に寝かされていた。

その前にある机もなんだか高そうだし、そもそも下に敷かれたスカーレットのカーペットなんて歩くことを禁止されそうなくらい高そうだ。

さっきから高そうしか言っていない気もするがそれは向井の語彙力が低いせい。

それにしてもさっき聞こえた声は一体何処から聞こえてきたのだろうか。


「おーい、大丈夫か? 私はこっちだぞ」


声がした方を向くと先ほどの眼鏡女が、成金社長が使っていそうな机に座っていた。

そして思い出す、この声は天界で電話越しに聞いた「神様の神様」のものじゃないか、と。


「あの、つかぬ事を伺いますが、あなたもしかして『神様の神様』ですか?」


「やっと気づいたか。その通り、いかにも私が『神様の神様』だ」


やっぱり、と向井は頭を抱える。電話越しでしか話していなかったから気づくのが遅れてしまった。

それと同時に何故彼女らの未来が覗けなかったのか理解する。彼女から貰った力なんだから覗けなかったのか。


「ん、『神様の神様』がいるということはここは『天国の天国』ですか?」


「ここは現世だけど…ややこしいから私のことは『神様の神様』じゃなくてこの世界での名前で呼べ」


神様の神様はそう言って再び名刺を胸元から取り出した。それを見てササっと身構える向井に神様の神様は苦笑する。


「もう爆発させないから安心しろ。ほら受け取れ」


「本当に大丈夫なんですか? ………『神様地球支部取締役 地神(ちかみ)楓』。この神様地球支部ってなんですか?」


「んー、それはな、私が地球の神様を束ねてる神様だってことだよ」


「へー神様の神様だけあって凄い人なんですね。ああそうそう、先日はこんな素敵な超能力をどうもありがとうございます。

お陰でこの世界でやりたい放題やらせてもらってます」


「おかげでこっちも面倒事が減りそうだし構わんよ。あとこの書類にサインしてくれ。超能力渡すのも手間がかかるんだ」


「神様って色々と面倒なんですね……うわあ何語ですかこれ」


向井が唸るのも無理はない。地神から渡された書類はアラビア語で書かれていた。


「しょうがないだろ。くじ引きの結果、今年中天界で使われる言語はアラビア語に決まったんだから。ほらさっさと書けよ」


「アラビア語で自分の名前書けないんですけど」


「それは日本語でいい」


そう促がされ向井は躊躇うことなくサインを書いていく。

だがそれは地神の原始的かつ巧妙な策略、サインを書き終わるなり彼女の態度は一変する。


「よーしサインしたな。おい白石、こいつを仕事に連れてけ!!」


「ヤヴォール!!」


威勢のいい返事とともに部屋の扉が開かれる。

そこに立っていたのは件の目つきの悪いゴスロリ女。そうか、こいつは白石というのか、向井は混乱のあまりそんなどうでもいいことを考える。

白石は向井を見るなり隣に座って馴れ馴れしく話しかける。


「どうも向井君、そういうわけだから今日からよろしくね☆」


「え、ちょっと待って、仕事って何? どこに行くの?」


「そんなの行けば分かるから、とりあえず現場に行こうか」


そういうことになった。





向井は白石ととあるアパートに身を潜めていた。

同棲生活を始めたわけではない、目的は窓から見える廃工場にある。

黄昏時だからか、その廃工場からは何処か不気味な雰囲気が漂っていた。

割れた窓や開けっ放しの大扉から滲み出る暗闇は近づく者全てを引きずり込もうとするような、そんな感じ。


「目的地に着いたことだし、そろそろ仕事が何なのかと、何で俺がサブマシンガンを持ってるのかを教えてくれよ」


「今回の仕事は地上に蔓延る悪魔の殲滅、サブマシンガンはあの廃工場での戦闘用だよ」


「いきなり話が飛んだな。悪魔とか意味分からないんだけど」


「詳しい話は仕事が終わったらね。とりあえずこいつの未来を見て」


白石はそう言うと向井に一枚の写真を手渡した。

そこにはなんだか幸薄そうなマッシュルームヘアーの男が写っている。


「この人は誰なんだ?」


「名前は中田 勇人。その人はなんというかこう、悪魔にどっぷり浸かってしまったの」


「それは、悪魔崇拝みたいなものか?」


「うーん…まあ、そんな解釈でいいかな。要は悪魔に力を借りようとする人だね」


白石は悪い目つきで廃工場を見ながら言う。その目つきに真っ黒のドレスってお前が悪魔だろ、というツッコミを飲み込んで白石は質問する。


「でもさ、そんな事やったって何も起こらないわけだし放っておけばいいんじゃないの?」


「たまーに、成功させる輩がいるのよ。そうなった人達は危険だし悪魔が付きまとうから、私達の手で抹殺するの」


「抹殺ってなんだよ」


「抹殺の意味くらいわかるでしょ、殺すのよ」


「ちょっと待って、いくら悪魔崇拝者だからと言って殺しちゃダメだろ」


向井のそんな発言に白石はため息をつき立ち上がった。

彼女が長いスカートをひらひらと揺するとスカートの中から数発の銃弾がフローリングの床に零れ落ちた。


「お前…そのスカートどういう構造してるんだ?」


「そんなことは気にしないで、とにかくこの銃弾を見てみなさい」


白石に促がされ、向井はフローリングに落ちた銃弾を拾い上げた。

どうということはないな、そう思った彼の手が止まる。


「なんか表面がラミネート加工されてるな…随分と手間がかかりそうだけど、これがどうかしたのか?」


「それはラミネート加工じゃなくて悪魔殺しの魔法陣よ。悪魔は一度人間に取り付いたらそこから離れない。だからその鉛弾をぶち込んで人間と一緒に殺せばOKってわけ」


「それはOKなのか? 死んだ人間が可哀想だろ」


「向井君は意外に面倒な人だね。あなたは死んだ後どうなったの?」


向井はそこまで言われてやっと気づく。


「ああ、死んだらそいつを現世に転生させりゃいいのか」


「その通り。悪魔が取り付いた状態で死ねばその魂が行くのは地獄、もしくは魂自体が消滅する。そうなる前に私達が助けようじゃないのってことよ」


そんなことを話していると先程のマッシュルームヘアーの中田がアパートの前に現れた。

ただその様子が何処かおかしかった。

半袖故に晒された彼の腕には大きな刺青が彫られ、数十カ所に及んで大きな傷が入っていた。

そして何より廃工場から漂ってくるあの暗闇の感じが彼の身体から溢れ出しているのだ。

それを本能的に危険だと察知した二人は身体を強張らせる。


「おい白石、なんだよあのドス黒い感じは?」


「あれが悪魔のオーラってやつだね。それにしても、いつ見ても寒気がするわ」


中田が廃工場に入って行ったのを確認すると二人は準備に入った。

向井は能力を行使して彼の未来を覗き、つまり廃工場の何処に潜み、何か罠が仕掛けられていないかを確認する。

一方の白石はスカートを揺すり、サブマシンガンを二挺とポテトマッシャーを取り出した。


「だから、そのスカートどうなってんだよ。てかポテトマッシャーっていつの時代の武器だよ」


「だから、そんなことは気にしないでよ。それより彼の未来はどうなの? 工場の間取りは?」


「工場の間取りくらい最初から調べておけよ…工場は大扉から入れるフロアとその向こうの応接室兼社長室のみ、あと十秒でそこに中田が入っていく。普通に歩いてる感じを見る限り罠はないな」


「そう…それじゃあ、行きますか」


白石は自身の緊張を和らげるために向井に手を差し出した。向井は不安を無くすために彼女の手を取る。

こうして向井の初めての戦闘は幕を開けた。

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