表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

自分への挑戦です。多分グダグダになります。

見渡す限りの蒼穹、その下にはどこまでも続く雲の絨毯、常春のような陽気、まるで神の住む世界に横たわる男が一人。

しかし、その男にはこんな所に寝ている心当たりがなかった。

そりゃそうだ、彼は先程まで道端をスキップしていたのだから。

もし仮に何らかの理由で死んだとしても、ここが天国だったり天界だったりするのはおかしい。

彼は無神論者だ。神も糞も信じていない。信じない者は救わない神様なんて死んだ方がマシ、というのが彼の持論だった。

しかし、たしかに電工2種の免許を受け取って「よーし壁にコンセントを取り付けちゃうぞー」なんてはしゃいでたところをトラックに撥ねられた気はするのだ。

だがこうして五体満足ということは死んではいないだろう。もしかしたらここは夢の中かもしれない。

それにしても撥ねられた際に頭を思いっきりぶつけたからか超痛い。所々記憶も飛んでいる。両親の顔とか、自分の名前も忘れている。これが俗に言う記憶喪失か。


「記憶喪失違うね。お前の魂が身体から切り離されたから記憶も名前も失われただけよ」


突然聞こえてきた謎の片言に男は思わず飛び起きて振り向く。

そこに立っていたのは中国パブにいそうな厚化粧のねーちゃんだった。


「驚かせてゴメンネ。私は無神論者の魂を導く派遣神様の凛ちゃんよ。早速だけどお前に選んでもらうよ」


「ちょ、ちょっと待ってくれ、魂とか、選ぶとか意味分からないんだけど」


男の最もな質問に派遣神様の凛ちゃんは困った顔をする。


「意味分からなくないよ、お前死んだね。死んだら魂が天に昇って、それぞれ信じる神様のところ行くよ」


ホラ、と凛ちゃんが指差した先にはパンチパーマの優しそうな顔したおっさんがいた。そのおっさんの周りには主にアジア系の顔つきの人間がわらわらと群がっている。


「アレ、仏教徒ね。あの人達は仏陀が極楽浄土に送っていくよ。他にもキリストもムハンマドもいるね。無神論者は彼らの言う天国に行けないよ」


「じゃあトラックに轢かれたのは本当だったんだ…ってことは、もしかして無神論者の俺はこのままここに一生いなきゃいけないのか?」


「お前ちゃんと話聞いてたか? 私が無神論者共の魂導くね。ほら、早く行き先選ぶよ」


凛ちゃんはそう言って男に紙切れを手渡した。

その紙にはこう書かれていた。




☆無神論者用転生スペシャルプラン☆



・現代に蔓延る悪を叩き潰せ!!列島警察24時


・異世界に転生して人生逆転!!賢者見習いツアー



☆これで無神論者も一発入信!!今度こそ天国にレッツゴー!!☆




この内容に男は困惑する。

何でこの二択なのか気になるということではなく、この二つで何に入信できるのだということだ。

賢者はなんとなく精霊信仰的なやつだと分かるのだが警察が分からない。

桜の代紋に誓って云々ということだろうか? まあ警察という時点でスルー決定なのだが。


「この列島警察はさておいて、賢者見習いツアーって何なんですか?」


「あーそれね、現世の小説とかアニメで出てくるような異世界に行って魔法使うできる人気プランね。無神論者これ見てバカみたいに喜ぶよ。お前も喜べ」


凛ちゃんにそう促され男は戸惑う。

確かに異世界に行けるんだから喜ぶべきだろう。

だがこの男には潔癖の気があるのだ。

くるぶし丈以上の草むらもNG、ヌルヌルネバネバもNG、野宿NG、風呂場のタイル張りもNGなどなど、いくら魔法が使えるメリットがあっても、明らかに公衆衛生がガバガバな異世界に行ったら死んでしまう。

だからといって警察も彼には向いていない。

彼は初対面の人間に目的もなく話しかけられるのは構わないのだが目的もなく話しかけるのはNG、つまりは職質ができない。

それに道端で裸になっているような酔っ払いに触れたりしたら死んでしまう。


「凛ちゃん、これ以外のプランってないの?」


「お前に気安く凛ちゃんなんて呼ばれたくない、凛様と呼ぶね。大体お前無神論者のくせに贅沢言い過ぎよ。あの仏教徒達行き先一つしかない、さー、どっちか選ぶね」


「どっちか選べって、上のプランとかただの番組名じゃないか…じゃあ下の賢者見習いツアーでお願いしようかな」


「うんうん、あの世界なら謎パワーで周りに女の子沢山来るしそれがいいよ。神様に連絡するからちょっと待つね」


凛ちゃんはチャイナドレスの際どいところから文明の利器、携帯電話を取り出して神様に電話をかけた。

神様って誰なんだろう、もしかして神様の神様かな、そんなことを考えてると何やら凛ちゃんが電話の相手と揉めだした。

しばらくの悶着の後、モウシラナイネ!と電話を何処かへ投げ捨てた凛ちゃんは頭を抱える。


「アイヤー、異世界行きのチケットは売り切れみたいね。そういうわけでお前警察決定よ」


「パードゥン?」


「だから、異世界行きのチケットは売り切れたね。お前選べないよ」


「おいちょっと待て、俺は酔っ払いの介護とかやりたくないぞ」


「売り切れは売り切れよ仕方ないね。どうしてもって言うならお前が神様と交渉するよ」


凛ちゃんはそう言うと再びチャイナドレスから携帯を取り出して男に手渡した。

携帯を何個持っているんだという疑問はさておき、神様の番号を連絡先一覧から探し出してかけてみる。

しばらくのコール音の後、何処か女性のような声が聞こえてきた。


『はいこちら神様ですが』


だから神様って誰なんだよ、そんなツッコミを心の中でしながら陳情してみる。


「あの、こちら…えっと、派遣神様の『凛ちゃん』のところにいる者なんですけれども」


『………あー、凛ちゃんのところの無神論者か。神様を目の前にした気分はどうだ?』


「あれが神様と言われても実感湧きませんね。それで、お願いがありまして…」


『言いたいことは分かってる。だが残念ながら異世界行きのチケットは売り切れなんだ。最近は志望者が多くてな』


「なんですかその理由…もしかして、その世界に存在できる魂は一定ってパターンのやつですか?」


『そうそうそんな感じ。最近お前ら人間が増えすぎたからこっちの仕事も大変なの。アンダースタンド?』


「はあ、しかし、できることなら異世界に行って公衆衛生がしっかりした桃源郷を作ろうかなあと思っていたもので」


『それは諦めてくれ。転生してチート能力を得られなくて残念かもだが、その代わり国家権力というチートを存分に振り回せるんだぞ』


「いやいや、俺は風俗店の摘発もヤク中の検挙もしたくないんですよ」


『お前はめんどくさい奴だな…そうだ、お前に地味な超能力やるから、現世で順番待ちしといてくれない? お前が生きてる間に何とかしとくから』


「なんですかその地味な超能力って。全然魅力を感じないんですけど」


『あまり派手なやつをあげちゃうと現世が崩壊するんだから仕方が無いだろ。てかお前は無神論者のくせに贅沢言い過ぎ。地味でも貰えるだけありがたいと思えよ』


「はあ、すいません…それで能力の内容は?」


『そうだなあ…現世にいる本物の超能力者程度となると、私がお前にやれるのは「触った女の子とヤレる能力」か「人の未来が見える能力」のどっちかだな』


「絶妙に微妙な二択ですね、迷うなあ…」


『さあ警察になるかヤリチンになるか占い師になるか、なるべく早く選べ』


「だから警察は論外なんですって。うーん………腰痛持ちなんで、占い師でお願いします」


『よーし占い師だな。それじゃあ…そうだな、名前は前のままの向井亮介でいいか。向井君に神のご加護があらんことを』


その言葉を皮切りに男の身体が輝きだしていく。つまりは転生が始まったのだ。

あまりに突然の出来事に声も出す間もなく男の姿は消えていき、持っていた携帯だけが雲の上に落ちた。

それを見届けた凛ちゃんは携帯を拾い上げる。


「もしもし、私ね、凛ちゃんね。神様も上手なこと考えたね。面倒事一気になくなったよ」


『こうでもないと神様の神様なんて務まらないさ。後はこっちで面倒見るから次の仕事に行け』


「了解ね。神様仕事早くて助かるよ」






「……………………朝か…いや昼か」


男は気がつけばベッドの上に横たわっていた。ほら、やっぱり死んでいないじゃないか。

念のため財布を漁り、免許証を確認してみるもそこには「向井亮介」ときっちり書かれていた。

やはりあれは夢だったか、向井はため息とともにカーテンを開く。


「(今日も憂鬱な一日が始まる、いやもう始まってるのか…ん、あの子は…)」


向井の視線の先にはスマホをしながら歩く可愛い女の子が見えた。

そういえば俺は超能力者だったな、どうせならあの子の未来を占ってみよう………そうだな、あの子は俺の家に尋ねて来るな。そんな絵が彼女の視点で彼の頭に浮かんでいた。

向井は自分でも馬鹿らしいと思ったのかもう一つため息をつき、冷蔵庫に入っていた炭酸飲料を開ける。

その時、向井の住む安っぽいアパートに珍しくチャイムの音が響いた。

不思議に思った向井は何の躊躇いもなく扉を開け、固まる。


「お昼時にすいませーん。ちょっとお話がありまして」


扉の前には大きめの鞄を持って立つ女がいた。

ただでさえ珍しい来客なのに、それが女の人だなんて、と驚いているわけではない。

向井にはその女に見覚えがあった。この女、さっき窓から見ていたあの女である。つまりは彼は予知に成功したのだ。

しかし確証は持てない。なら次は彼女はどう出るだろうか。向井は集中力を高め、彼女の未来を覗いていく。

まずは扉に足をかけ、アホ面を晒している向井に人当たりの良さそうな笑顔でこう言うのだ


『聖書なんていかがでしょうか?』


そんなことを想像していると目の前の女は予想した通りに足を扉にかけ、予想した通りに人当たりの良さそうな笑顔でこう言った。


「聖書なんていかがでしょうか?」


本当に占い師でもやろうかな、向井は今日一番の大きなため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ