月を探して
「美夢希ももう行ったし、俺たちどうする?」
「まあ、本でも読んでるか?」
「ダツはもうすぐ"儀式"があるだろ?」
「まぁな…。」
こんなたわいも無い話をしていたら"ピンポーン"と聞こえたような気がした。
「ピンポーン」
また聞こえた。
今度はもう少し大きな声で。
そう、声だった。
なぜなら、この世界にインターフォンが無い。
だから、聞いた事も無いはずなのに何故この声が聞こえるのだろう…?
誰がこの音を知ってるのだろう?
「セツ、どうする?見に行って見る?」
「ピンポーン」
「行くしかないだろ?」
「ピンポーン」
ハッキリ言ってウザい。
こう言えば人が出てきてくれると思っているのか??
確かに地球では人が出てきてくれるとは思うが、それは、インターフォンが鳴っているからだ。
口で言ったって誰も出て来てはくれないだろう。
うるさいのか、濁黒も顔が険しくなっている。
「うるさいぞ。」
と言いながらドアを開けた。
「ピンポーン」
まだ言っている。
何?
障害者と言うやつか?
と思いながら顔を見た。
か、可愛い…。
こーゆーのが男の娘って言うのかな…?
彼の顔立ちは、誰が見ても一瞬女の子と間違えるくらいの可愛さだった。
赤く短い髪、目はクリクリしていてこれもまた赤。
だが、そんな顔に合わないボロボロの服を着ている。
後から来た濁黒も驚いた顔をしている。
「どちら様ですか?」
濁黒の営業スマイル。
それを答えるかのように彼の小さく紅色をした唇が開いた。
「ピンポーン」
は?
こいつは何が言いたいんだ?
竊志は、彼を自分の物にしようかと思った自分を消去した。
今言うのもなんだが、竊志はれっきとしたゲイである。
「寒いでしょう?暖かい所に行きましょう。」
こんな子にまだ営業スマイルで居られる濁黒に竊志は、感心した。
彼の手をひき、客間に行った濁黒は、ペンと紙を出しここに自分の名前を描いて下さい。と言った。
紙には漢字が二文字"更夜”と書いてあった。
「何と読むのでしょう?」
わかりきっているはすなのに尋ねた。
多分声が聞きたかったからだろう。
「こうや」
更夜はボソッと呟いた。
「ここに来る前は何処にいましたか?」
濁黒は尚も笑顔で話しかける。
「旅してた。」
「生まれた所は?」
竊志もノリで聞いてみた。
自分にも答えて欲しいと思ったのだ。
だが、
「うっ、うぁ〜。あっあー!」
と喚き出したのだ。
「ごめん。今のは冗談だから…な?」
「本当に?」
そう涙目で訴えて来る顔は、愛らしくて仕方なかった。
だが、濁黒は、違うように捉えたようだった。
「一緒にここで暮そう。」
そう言うと、嬉しそうに頷いた。