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失せ物探し

お気に入り登録ありがとうございます。いやでも、本当に申し訳なく思うのですが、書き足し投稿という形が来年の四月まで続きます。見捨てないでください。

 久しく目撃されてこなかった竜が、百年ぶりにトウルン王国の空を舞ってから四年。当初はやれ、天変地異だの、吉兆だのと叫んでいた市井の声も、季節を二つまたいでもう、噂にものぼらなくなっていた。しかし、地方の町では未だに健在で、竜を狩るだの、なんだのと初夏の街角で騒ぐ者もいる。 

 たとえば、隣にいる相棒もそうだと、セレナ・アルバは横を見る。何か筋肉がいた、いや、違った。ダークエルフの女の視界に映ったのは、逆立ち拳立伏せに挑む相棒のトーレルの勇姿だ。2メートル近い巨体のせいで、ただでさえ狭い事務所が余計に狭っ苦しく、また初夏の熱気を増す悪効果を生み出していた。

「なあ、トーレル・・・」

セレナの呼びかけに帰ってくるの、相棒の呼吸音のみである。

「暑苦しいから外でやれよ」

 返事はない。既に自分の世界に入ってしまったようだ。嫌がらせに丸めた紙を投げつける。セレナの必中、必殺、必滅の呪いを込めた紙屑は、巨漢の額に直撃するも、効果は見られない。

いやそれは早計だったようで、男はわずかにバランスを崩し、しかし、危うく元の平衡をを取り戻す。それでも、気をひくには十分だったようだ。 

 巨漢がこちらを見ている。

 こちらを睨んでいる。

「いや睨むな、悪かったて。・・・・実は仕事の話が入ってね」

「聞こうか」

いつの間にか、男は直立二足歩行に戻っていた。嬉々とした表情でトーレルが、愛剣に手をかける。北方の島国の、戦士たちが用いるその剣は、全体が槍ほどの長さを持つ。到底、実用には耐えられそうもない代物を、この相棒は、楽々と扱った。

「いいか、絶対に、それを、ここで抜くな・・・、話を戻せば」

一呼吸セレナがおいたところで、太い声が割り込んだ。

「わかっている、ゴートナムの地方で、カタナとかいう武器を探すんだろう!あの辺は、二〇メートルもある大蛇がいると聞いたぞ、ははは。

ささ、いくぞ、セレナ」

話を、途中で遮られたことより、相棒が依頼書を読んでいたことに、セレナは驚かされた。いや・・・。そういえば、この依頼は奴が持ってきた、と思いだす。

「蛇は、狩らないけど?」

絶望するトーレルを尻目に、セレナは自分の杖とナイフを手に取った。



 セウルン王国の北に位置するゴートナム、山と木の地である。古くから王国には魔の入ってくる地として恐れられていた。その典型がトーレルの語ったジムザ山の大蛇、とかゴブリン十一族といった、異類異形のモノ達である。

 当然、そんなところに行くのは、カタギの連中ではなく、冒険者とかいう頭のおかしな連中だと、酒場のオヤジは言った。

 馬車に揺られながら、セレナは、隣の相棒をちらりと見る。なるほどと、得心がいった。

 たしかに、わたしたちは頭がおかしい。のかもしれない。

「何かいったか?」

いやなんでも無い、とセレナは巨漢に返しておく。


途中、山賊と子鬼の一団を追い払い、二日目の今辺りにまた何か来るかと巨漢は暇潰しを探していた。しかし何も起こらない。大変結構なことだ。


少しして馬車の揺れが止んだ。

「さ、蛇・・・じゃなくてカタナ探しだ」先に降りた相棒の元気な声を、かわすように、セレナは馬車から下りる。

目と鼻の先には、ゴートナム最端の小さな村がある。とはいえ、ただの農村と言う訳ではなく、深い空堀と丸太でできた頑丈そうな防御の柵が、村の中央部に砦のように建てられていた。

「ものものしいな、見ろ。矢倉まで立っていやがる」

「ああ。さすが、秘境近くの村ということだ」

相棒が、笑った。セレナの唇も自然とつり上がる。

「秘境。秘境か、俺たち冒険者に残された・・・、あれだな」

「なんだ?」

「いや、早く村長のところにでもいこうぜ」

言葉を濁しつつも、相棒の巨漢剣士はさっさと、村長の家らしき一際大きな家へと突入していく。ダークエルフもその後ろ姿を追っていった。

 

 


 「カタナの探索ということでやって来たのですが、具体的にカタナとは、どのような武器、・・・なんですか?」

自己紹介も終わった頃、セレナはまず、この探索の最も基礎になる質問を村長に向けた。

「剣と同種の武器と聞いていますが・・・・・・」

同時に自分の持っている情報の程度を相手に伝える。

「・・・なるほど、あまりこの辺りでは一般的な武器ではないからなぁ」

問いに答えたつもりなのか、それともただ呟いただけなのか、四十近いこの村の長が発したのは、そのどちらともとれる言葉だった。

「少し、お待ち下さい」

そう言って、この家の主人自ら家の奥の部屋にひっこむ。どうやら、こちらが、カタナについてある程度知っているという前提だったようだ。

「・・・この家の主人は従軍の経験があるようだな」

「・・・なぜそう思う?」

「扉の向こうに、鉄鞭が見えた」

「・・・はぁぁ。なるほどな。トーレル・・・」

「なんだ、」

感嘆の意味合いが、ダークエルフの相棒からは聞き取れた。

「お前、本当にそういう処はよく見ているよな・・・」

「よせ、いぇれる」

「はい?」

「照れる、だ。あまり褒められると背中の辺りが落ち着かぬよ」

セレナの、人の二倍はあるこれまでの長い人生を見返せば、確かに戦場で見たことがある武器かもしれない。


 鉄鞭、打撃武器の一種で硬鞭と言ったほうが大意は伝わりやすい。一見、剣のような見た目をしているが、鎧の上から敵を叩き殺す、戦場の武器だ。云われてみれば、以前に隣の巨漢が解説してくれた覚えもある。確か、東の大国の武器だったはずだ。とすると、カタナとやらも東の方に由来する武器なのかもしれない。明確な根拠はないため、ただのダークエルフの勘であるが。


 「お待たせしました」

戻って来た村長が、机の上に品々を置いていく。と言っても白木の鞘に、図の描かれた紙が机の上にあるだけだ。

「それでは、」

「ご主人、従軍の経験がおありで?

セレナが止める間もなく、巨漢がいきなり話の腰を折った。

「おま・・・すみません。これは・・・バカなんです」

電光の速さでセレナの口から謝罪の言葉が飛び出る。

「いいや、構いませんよ」

村長が妙に楽しそうに笑う。

「剣士の方のおっしゃる通り、若い頃は戦場にて名を上げんと、そう思った時期が私にもありましてね。多少の軍功も立て、退役する際にそのカタナも貰ったものなんですよ」

「ほうほう」

村長の言葉に巨漢の剣士の目が光る。

「だとすれば、そのカタナは、」

「はい、かなりの名品です」

村長が紙を広げると、そこには精密に写された刀の絵があった。

「おお」「これが・・・」

形状から見るに恐らく片刃、湾曲した刀身は切断に拘っただけではない、極限の合理性と、不思議な精神性を宿している様にも見えた。

「・・・しかし細い。このような刀身では、戦場で通じんと思うのだが」

剣士であるトーレルには不可解なものに思えた。これでは武器というよりも、祭器。外部の力と交信するための触媒のように思える。

「トーレル殿は魔剣とお聞きしましたが・・」

「うむ」

「ならば、解るはずです。あらゆる武器にはその使い方の原理原則が存在します。私にこれを譲ったアラン=ドラ将軍、あの方も魔剣でしたが、金床を切割り、城壁を断っていました」

なるほど、巨漢も頷く。


「いや、さっきから私だけ茅の外だよ・・・・・・」

白熱する男達の議論の隣で、セレナは寂しそうに息を吐く。そんなセレナの様子に村長も気付いたようで、

「刀の探索に話を戻しますと、これがちょうど二年前の、この辺り一帯を荒らしまわった古代蛇の個体がいたのですよ」

それが何か関係あるのかと胡散臭げな顔をするセレナとは対照に、巨漢の貌は実に楽しそうである。やはり剣士の血とか云う、訳が分からぬモノがこの世には存在するらしい、セレナには理解しがたいものではあるが。

「それと同時期に現れた、野人が・・・」

「え、野人?」

「読んで字のごとく、どちらかと言えばゴブリンに近い奴です」

なかなか想像にむずかしいな、とセレナは顔をしかめ、話をつなげる。

「ふうん、十一氏族ですか?」

「ええ、面白いことに野人は、ゴブリンと一緒にいることもあるようです。・・・それはさておき、奴が現在、刀の所持者です。率直に申し上げると、やつを捕まえてほしい。出来れば生きたままで」

「野人とやらは、よほど手強いのか?」巨漢の目は最早、御馳走を目の前にした獅子のそれに転じていた。村長も苦笑して、

「はい、古代蛇の個体を殺したのも奴ですから」

何かに期待するように、その答えは何処か楽しげだった。



えー、新キャラ登場です。主人公は二話ぐらい後に出てくる予定。果たして魔法はでるのか?ヒロインは出るのか?>>出ない。

続きます。

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