深夜に
初投稿です。ブラインドタッチの練習も兼ねてます。末永く楽しんでいただければうれしいです。よろしくお願いします。
気がつけば布団から転げ落ちていたというのは、よくあることだと思う。
霧崎九郎もついこの間十七才の誕生日を迎えたというのに、いまだに寝相の悪さに悩まされており、朝起きたら二階から一階に移動していたという事はたまにある。
しかし、
どこだよ、ここ。
深夜に木刀を振っていて見知らぬ場所にいたというのはただ事ではない。何を言っているか解からないと思うがしかし、ありのままに今起きたことを話す必要があるとは思う。
その日は、五月にしては異様に寒い夜だった。いつものように感覚を研ぎ澄ませ、体内の変化を繊細に感知しつつ木刀を振っていた。この時は我ながらかなりすごい状態で、木刀が体の一部のように外気を知覚し、恐ろしいほど軽々と体が動いた。どころか、外と内の感覚さえ曖昧で、自分が外気に拡散していくような、外気が自分の中に集束していくような、そんな特異な感覚さえあった。物の形も意味も見失い、唯自分一人が天地の中心で立っている。
そして気付けば見知らぬ場所、八方をどこまでも蒼空と雲海が広がる山の頂上に霧崎はいた。首をかしげながらも、あるいはこの転移現象に無邪気にテンションを上げながらそこらへんの具合の良い岩に腰を下ろす。
心当たりは全く無かった。
中流の家庭の、普通の生態を持つ平凡な高校生。確かに俺は実は人とは違うんだぜ!と主張したい年頃ではあるけれど、緊急事態の冷静さをもってして判断してみれば、所詮自分は凡人に過ぎないということを痛感させられる。
なぜ俺が?ここは何処だ?
山頂に立ってから頭の中を駆け巡る疑問は単語を様々に入れ替えられるけれども、つまるところこの二つの言い替えに過ぎなかった。
ただ、こうしてこの場にいることで一つわかったことがある。呼吸ができる。ということは、この山はそこまで高い山ではない。少なくとも三千メートルを超える山では無いという事だ。ただし断定をするのは些か早計かもしれない。物理法則が全く違う世界でたまたま呼吸が可能なだけなのかも知れないのだから。
次に持ち物の確認。
手には木刀。服は通販で買った紺の道着と袴、履いているものは地下足袋である。この二十一世紀においては珍妙な格好には理由があった。霧崎は妙な習性をもっており、別に剣道場に通っているわけでもなしに、ただ夜中に無人の道路で木剣を振るのだ。それならわざわざ道着一式そろえることも無い、という結論に至らなかったのは霧崎も相応の真剣さで稽古に臨んでいたからだろう。
とは言えど、
はたから見ればそれは変人と言うほかなく、また動きも子供の棒振り遊びもかくやというもので、警察のお世話にならなかったのは、たんにそこが田舎の人通りの少ない道だからだからという理由にほかならない。
おりゃ、えい、やあああああっ!
奇声を上げること一年。向かいのオヤジに文句を言われ、何か思うところもあったのか黙って立つ稽古を続けて二年。そんなことを三年続けて、男は何かに気がついたらしい。ようやくのっそりと動き出した開眼の日から丁度一年が経とうかという日に、霧崎九郎はこの転移現象に遭ったのだ。
文章を打つの難しいorz、紙に書く派なので・・・。