忘れてたモノ
玄関から外へ出ようと廊下を歩く闇は、なにやら不穏な気配を感じていた。
「……鉄…か」
柊のこの家は木造建築。闇の嗅覚でも気にならない程に鉄は使っていなかった。だが今は鼻に栓をしたい程鉄の匂いが漂っていた。確かこのパターンは…
ヒュッ ドドッ
「!!!」
首筋に何かの異物感。一歩遅れて、鋭い痛みが走った。素早く体制を取り直し、首に刺さった小刀を抜く。思ったより深く刺さった様で大量の血が噴き出す。小刀の先には…紅い液体と紫の……
「!?しまっ…痺れ毒…!」
しかし気ずいた時にはなんとやら、さっそく手足が痺れ始めた。バランスを崩しその場に膝をつく。その後ろには自身の首を狙う斧が………。
その頃柊は廊下のすぐそばにある物陰に隠れていた。そう、この罠を仕掛けたのは柊。飛んでくる斧で闇の首を斬り、外に出るのを止めようとしていた。些かやり過ぎにも見えるがこうでもしないと闇は止まらない。いや、この兄弟は止まらない。
闇の首に斧が食い込んだ。と思った瞬間、闇の体沢山の百合の花弁となり辺りに散った。
「なっ!クッソいつから騙され…て…」
「お前はそこで何をしている…?」
おそるおそる後ろを振り向けば…そこには目を光らせて殺気を放つ闇が、暗く、妖しく微笑んで……
「ちょ、ごめんなさ…ああああああ!!!」
昼下がりの空に柊の悲鳴がこだまし、鴉が山へと飛び立った…。チーンなんまいだぶ((
「いててて…」
「まったく…この一年で仕事の存在以外全て忘れたのか…?俺に毒や斬撃が効くものか」
そう、実は柊はここ一年程仕事に飛び回っていた。確かに思い返せば俺も闇も斬撃は効かなかったな…ど忘れしてた。俺は闇の首元を見る。なんとか気付かない程に隠してはいるが、身内の俺は知っていた。長い首に痛々しい傷、ほかにも肩、胸、腹筋、足…と沢山の傷がついている。全て今までの戦で受けた物だった。
勿論俺にも傷はあるが、闇程じゃない。こいつは自身から危険な処へ飛び込む。守るべきモノも無いのに。理由は知ってる。闇の首にある傷の中で一際目立つ五本の傷。こいつが自害を図った時のものだ。
他の傷も全て切断したもの。闇によれば五回程受ければその痛みにも慣れるらしい。狂ってる。
「…そうだな。忘れてた。……てめえが妖怪でも神でも無く、化け物って事をよぉ…」
「…ふふっ…今更何をほざく…?」
お互いに冷たい視線を投げかける。他所から見れば、お世辞にも兄弟とは呼べない程険悪だった。此処が街中じゃなくて良かった。
「…しかし困るな。化け物というその単語、本当に俺だけに言ったのかい…?」