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剣士志願者の聖譚曲—the Knight's Oratorio—  作者: 烏合 小鳩
第一部:「俺、剣士を志願します」
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008行間2「将軍達の苦悩」

「……」

 草木も寝静まった頃、クワトロの側近、ウォードは夜風に当たりながら遠くを見つめていた。

「こんな所で何してるの?」

 城内から一人の女性が歩いて来た。彼女もまた、寝付けなかったのであろう。

「……弓将軍か」

「アーチェでいいわよ。何か悩み事?」

「……別に」

「私たち三将軍は家族みたいなものでしょ。何も隠すことなんてないわよ」

 三将軍とは、アークライト国最強と呼ばれる三人の君主の側近だ。三人それぞれ得物が違うため、しばしば愛称で呼ばれる。——剣将軍、弓将軍、槍将軍と。

「俺がやってることは正しいのだろうか……」

 ウォードが言っているのは、先程の使者を斬り殺したことだろう。

「私達の任務は独裁者陛下をお守りすること。陛下に仇なす勢力は全て消さなければならない——っていっているのはいつも貴方じゃなかったっけ?」

「そう…だよな…それ以外に道は無い……」

「ふー寒いっ、こんな所に長くいたら風邪引いちゃうわよ!早く戻って来てね!」

「ああ」

 アーチェは颯爽と城内に戻っていった。

 しかし、ウォードは彼女の言葉に従わず、夜の風景を眺め続けた。

「父上……元気にしておられますか……?

 私は、またやってしまいました。父上の、大切な仲間を」

 その小さな呟きは、虫のさざめきに掻き消された。

「必ず、父上を救ってみせます。大きな罪を償ってみせます」


「ふぁ〜……貴方も寝付けないの? ピアー」

 ピアーと呼ばれたのは、三将軍の一人、槍将軍だ。

「ウォードはどうした」

「あの子は悩み事みたい。自分のやり方に疑問を抱いているようだったわ」

「そうか……やはり俺はあいつと相容れないのかもな。

 疑問など、抱くだけ無駄だというのに」

「でも、私たちの中で、彼が一番人間らしいかもね」

「我々は感情など持ってはならない」

「公務に影響しなければいいんじゃないかしら?

 じゃないと、本当に感情を捨ててしまうと、私達は何者になってしまうのか分からないから……」

「何者ですらない。我々は道具なのだから、陛下に従うのみ」

「そうね……私達はそれでいいわ」


 こうして、夜は更けて行った。

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