012エピローグ1「大罪の行方」
作戦を終えた一行は、ライドによって開かれた緊急会議に参加していた。
「改めて……オリオルフェスト国軍総司令、ヴェルナー・アンドロスだ」
「国軍大佐、スカー・オーランドだ」
「私はアクルクシア国第一王女、カナリア・アイシクルスロットです」
「だいにおうじょのアクア・アイシクルスロットです」
上人同士が紹介を終える。
「すげえ……二国のトップがこんなに……」
「何か場違いみたいですね……」
ガイとミーナは恐縮していた。
「この際だから、同盟についても取り決めておくか?」
「出来るなら、お願いします」
オリオルフェストとアクルクシアは、隣国ながらも国交が少ない。それは、オリオルフェストの施行している保護区制度による弊害だった。
保護区外には関所が敷かれており、関所を超えるためには許可などが必要となってくる。そのやり取りが厳格で、国に入るだけでも幾つもの審査を要した。
関所内の舗装は大分進んでいるものの、外は未開拓の地ばかりだ。
そのため、国に入るまでの道のりは、カナリアやアクアが体験したように魔物が出現したり、道が舗装されてなかったりと過酷な道のりとなっている。
海を使ったルートだと、幾分か外交もスムーズに行われるのだが、アクルクシア内陸国故に、関所を経由するルートしか選択できない。
やはりネックになっているのは、効率のよい外交の妨げとなっている『関所』だった。
「そもそも、何で関所を越えるのが問題なんです? 人間しか通ることはないんじゃないですか?」
アルフレッドが質問する。
カナリアがそれに答えた。
「近年、オリオルフェストには魔族が度々出現しているとか。
人型故に、仮に姿形人間と全く同じ魔族が現れたら見分けがつかないのです。
実際、魔族の確認が保護区内でも起こっているのに、それを緩めるのは難しいのでは、ということなのですよ」
「そうか……」
「何か、身分を証明出来るものがあればな……」
「そうだ!!」
突然、ミーナが立ち上がった。
「魔族ですよ、魔族!!」
ガイがシンシアを見るが、シンシアも首を傾げていた。
「皆さん忘れたんですか? 私達がこの討伐戦に参加した意味!」
そこまで言うと、やっと三人は思い出したようだった。
「丁度いいです。国軍総司令までいることですし……。
はっきりいいます。国軍は何故、魔族に拘るのですか?
ここ数日、魔族関係の依頼を沢山出していたはずです。現に、アルフレッドさん以外の三人はその依頼を受けていました」
ヴェルナーの口元が緩む。
「ハハハ……ここまで話が繋がると、何か縁を感じるぜ」
ミーナはその対応に驚いてしまった。
「なっ……こっちは真剣なんですよ!!」
「ああ、わりいわりい……
魔族が、魔王の使いであるって話は知ってるな。
俺たちも、魔王について知る必要があるんだ」
「魔王の、何を知ろうというんです?」
「そのものさ。魔王とは何か。
ここ最近、魔物や魔族の動きが活発になってきている。
つまり、魔王がそう指示しているんだ」
「てことは……?」
「ああ。そろそろ動き出すぞ。魔王軍が」
似たようなことが昔にもあっただろ? と、スカーが口を挟んだ。その一言で、ミーナにはピンときたようだった。
「魔大戦……!!」
「そうだ。第二次魔大戦が、近々起こるぞ。
まあ、それが何日後か、何ヶ月後か、はたまた何年後かは分からねぇ。
だが、いつか起こるそれに対して対策していても、損はないだろう?」
「そう、ですね……」
ミーナも、漸く理解したようだった。
「これと縁があるってどういうことだ?」
先程のヴェルナーの発言に、シンシアが質問した。
「関所の話から、この話をして、スムーズに俺のしたかった大罪の話に移れるだろ?
少しずつ、縁が繋がってるんだよ」
「つまり、今から話すんですね」
ヴェルナーは息を吸った。
「そうだ。今からする話は『大罪』についてだ」
一同は、真剣な眼差しになった。それは、強大な力を持つ上に、所持者の命に関わること。他人事とは言えないものだからだ。
「少し、昔の話をする。さっきも聞いたが、お前ら、『魔王』を知っているんだよな?」
その問いに誰もが頷いた。
「だよな。この世の悪の根源だ。ならば——
『神』を知っているか?」
——誰も頷かなかった。
「何ですか? 『神』って……」
「此奴らが知らないのも無理はない。もう歴史学でも習うことは無いからな」
スカーが言った。
「『神』いうのは、『魔王』に対抗出来る唯一の存在だ」
「!?」
「しかし、そいつは『いない』ことにされちまった」
神を信じなくなった人間は自分たちの力で発展し、今の姿に至る。と、ヴェルナーは説明した。
「その時、調子に乗った人間がいたんだ。
俺は『神』になれる、と」
その人間の言い分はこうだ。
人間の階級制度の頂点に立つものこそが神である。
「しかし、そいつは罪を犯したんだ」
「罪……?」
「たどり着けるはずも無い、人智を超えたものを求めようとした罪。神になろうとした罪だ」
「もしかして……それが、『大罪』ですか?」
「まあ、そんな感じだ。『大罪』いうのは、継承されていく。最初一つだったものが八つに、そして七つになった」
「それが『七大罪』ですね」
「ああ。『傲慢』<スペルビア>、『貪欲』<アヴァリティア>、『暴食』<グーラ>、『淫蕩』<ルクシュリア>、『怠惰』<アケディア>、『憤怒』<イラ>、『嫉妬』<インヴィディア>の七つだ。
それらを一つに集めると、大きな災害が起こるらしい」
「災害って……」
「神の怒りに触れるんだろうな」
「待ってください! 結局、神っているんですか!?」
「それは分からない。しかし、歴史の中に淘汰されてきたということは、存在すると見なす必要が無いということだ」
「さっきの話の続きですけど、魔王を倒すにはどうすればいいんですか?」
ミーナが尋ねる。
「神の力を利用すればいいんだ」
「どうすれば……?」
「神を呼び出す……つまり、七大罪を一つの場所に集めるんだ」
「所有者はどこにいるんです?」
恐る恐る、アルフレッドは尋ねる。
「割れているのは、四つだ」
一同は集中して、その言葉を聞き取った。
「まず『傲慢』<スペルビア>は俺。ここ、オリオルフェスト」
ヴェルナーは話を続ける。
「『貪欲』<アヴァリティア>はアレスター大陸の何処か」
「アレスター大陸……アークライト国がある大陸ですね」
アレスター大陸は、オリオルフェストのあるトリトンヘイム大陸の西方に位置する大陸だ。アークライト、エールハウスの二国がある。
「『淫蕩』<ルクシュリア>が、デルタバーグ大陸、その中のアルバニア国にある」
「なかなか明確ですね」
「有名な噂があるからな……確実だ」
残すは後一つ。それを言うのをヴェルナーは躊躇った。
「どんな真実だろうと、受け止める自信はあるか?」
それはある人物に向けられた言葉だったが、明示はされなかった。ヴェルナーなりの考慮だろう。
「……『怠惰』<アケディア>の持ち主は、アクア・アイシクルスロット。こいつだ」
アクア自体はあまり理解できていなかった。それ以上に、カナリアが驚いていた。
「『怠惰』の効果は敵の、或いは魔物の理性を破壊すること。所有者の悲嘆と共鳴する」
一同は思い返していた。先程の戦いでの巨雄牛の姿。それはアクア泣き声と共に暴走を始めた。
「『怠惰』を司る幻獣は『大熊』<カリスト>。
その兆候が、巨雄牛にも現れていたはずだ。」
証拠が次々に判明し、戸惑うばかりのアクア。カナリアも真実を受け止めるしか出来ることはなかった。
「反作用は何か分からない。ただ、まだ何も無いということは恐らく即効性のものではないだろう。
何かあったら、俺を頼ってくれ」
「分かりました……」
カナリアは、そう言うしか出来なかった。
「まあいい。そこで、お前達に頼みがある」
ヴェルナーが言ったのは、アルフレッド達に対してだった。
「全ての大罪の在り処を探してくれ」
「俺達がですか!?」
「俺はオリオルフェストの統治者だ。長くこの地から離れるわけにはいかない。それに、大罪所有者同士が対峙して始めて起こる厄災が無いとも限らない。アクアとは大丈夫みたいだったけどな。つまり、大罪を所有せず、事情を把握している者に頼む必要があるんだ」
「それで、俺達ですか……」
「お前らなら……魔族を倒し、俺を助けたお前らなら出来るはずだ。頼む」
ライドは真剣だった。
「どうする?」
ガイは三人に確認をとる。三人は目を合わせた。
「……やります!!」
「だ、そうです」
「そうか。本当に、ありがとう……」
「アルフレッドには、助けられっぱなしですな」
バルドロは笑う。
「ああ。こいつは、何か持ってるのかもな」
褒められたアルフレッドは照れる。
「そんなこと、無いですよ……」
「ハハッ! 調子に乗るなよ? まだ何も達成していないんだ。
照れるのは全て終えてからにしろ!」
ライドはアルフレッドの背中を叩いた。その顔には、笑顔が浮かんでいた。
会議は終わり、アルフレッド達四人は会議室から出て行く。
それは彼らパーティの旅立ちでもあった。
「次はどこに行きます?」
祓魔師、ミーナ・ファウスト。
「まずは酒場に行って情報を集めないとな!」
メイジ、ガイ・マデューカス。
「どうした? アルフレッド。変なとこ見て」
弓使い、シンシア・グレイスフォード。
「ああ、別に……ただ——」
剣士、アルフレッド・ガルシア。
四人は歩き始める。
それはこれからの長い道のりの中でも、まだまだ一歩にもみたない一歩だった。
「——剣士になって、本当に良かったなって、そう思ってただけだよ」
剣士志願者の聖譚曲—the Knight's Oratorio—
第一部 「俺、剣士を志願します」
—終—




