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剣士志願者の聖譚曲—the Knight's Oratorio—  作者: 烏合 小鳩
第一部:「俺、剣士を志願します」
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009第三話1「作戦開始」

 一週間後、国軍本部にて——

「勇敢なる英雄達よ! よくぞ集まった!!」

 整列する国軍兵士。それに続いて一般労働者、パーティが並ぶ。その場は藍色——国軍兵士の制服であり、国軍イメージカラーでもある——に染まっていた。

 長々と式辞、お偉いさんの話——とても後方にいたので顔は見えず、ましてや声など聞こえもしなかった——を延々と聞かされ、やっとこさ作戦概要が話されたと思ったら詳細は班ごとに班長が伝えるという話だった。

「それでは諸君らは班ごとに各会議室に行くが良い」

 その言葉によって大きな式は終わり、アルフレッド達パーティは予め決められていた班での行動になった。


「俺らの班はこの部屋だよな」

 国軍本部を歩き回れるというのは貴重な体験であるが、遊びに来ているわけではないのでガイが先導して会議室前に到着した。

「すげー! ここが国軍本部かよ!! かっけーな!」

「床の材質から凝ってるねぇ」

「うち、まだ見て回りたい〜〜」

「鬼ごっこやろうぜ!」

「この年で鬼ごっことかあり得ないね。ここは僕の曲を聞こうよ」

「うちあんたの曲嫌いやし! それやったらうちが歌うわー!」

 後ろから、違うパーティが来た。アルフレッドはそのパーティの分別の無さに驚いた。

「うわぁ……あんな人達もいるんだな……」

「あまり関わらないようにしよう」

 シンシアも同じことを思っていた。

 と、そこへ一人の男性がやってきた。

「こら、あんまり騒がないでくれよ。周りに迷惑だろ? それに僕達のパーティが常識が無いと思われると困るだろう?」

「はぁい……」

 その人物は見た目と言動からそのパーティのリーダーだった。常識ある人間がそのパーティにいたことに、アルフレッドは胸を撫で下ろした。そして、その常識ある男が三児の親にしか見えなくて微笑ましかった。

「あ、すいません。こちらがF班の会議室でしょうか?」

 不意にその男がアルフレッドに話しかけてきた。

「えっ、ああ……そうですけど……」

「もしかして、貴方達もF班ですか?」

 シンシアは露骨に嫌そうな顔をした。ミーナも苦笑いしている。(ガイは同じ人間そうなので何も感じていないみたいだ)

「貴方達もってことは……」

「はい、僕達はF班ですよ。中に入りましょう」

 アルフレッドは溜息をついた。


 中に入ると、アルフレッドは目を疑う光景を見た。

「ライドさん!! バルドロさん!!」

 剣士事務所長のバルドロ・アームストロング、そして『無敗の猛者』ライド・モーグルが円卓に座っていた。

「奇遇だな、アルフレッド」

「何でこんなところに!?」

「別にソロで参加してもおかしくはねーよ」

 アルフレッドは他の三人が全く話に入れていないことに気づき、二人を紹介した。

「紹介するよ。この人は剣士事務所長のバルドロさん、そしてこの人が『無敗の猛者』って呼ばれているライドさんだ」

「ええっ!? それって凄い人達じゃん!!

 何でお前なんかが知り合いなんだよ!?」

 ガイが驚いた顔でアルフレッドに尋ねる。

「うーんと、就職試験の時に新人教育担当のグレイブって人にライドさんと戦わせられて、その時に魔物が事務所を襲撃したから一緒に戦った的な?」

「剣士ってそんなことまでするんだなー! 魔導師なんて適当に質問に答えただけだったぞ!」

 ガイが感心しながら言った。

「皆さん揃っていますか?」

 国軍の制服を着た班長らしき人物が会議室に入って来たので、一同は席についた。

「先に言っておきますが、見ての通り、この班は一般労働者のみで構成される班です」

 国軍兵はライドとバルドロに目配せしながら言った。

「しかしながら、此方の御二方は名声、実績共に優秀な方々ですので、作戦中は他の方々は二人に先導してもらいます」

 それを告げると、国軍兵士は部屋から立ち去った。彼は班長などでは無かったのだ。

「あれ? てことは……」

「そうだ。儂が班長で、ライドは副だ」

 バルドロがそう言った。

「そんなのありかよー! 国軍、職務怠慢じゃねーのか? 一般労働者だけに任せやがってよー!!」

「こら、シフ。言葉を慎め」

「分かったよルージュ……チッ」

 賑やかパーティの一人が喚いたのを、頼れるリーダーが咎めた。

「作戦概要は儂が把握している。何も案ずることは無い。

 さて……概要を説明する前に、自己紹介といこうか」

互いの顔を知り合っているのは、アルフレッド以外は各パーティ同士のみだった。

「先程の会話を聞いていたかもしれないが、儂は剣士事務所長をしているバルドロ・アームストロングだ。

 職業は一応剣闘士をしている」

「俺はライド・モーグル。職業は……剣士ってことにしてくれ」

 アルフレッドはライド職業を知らなかったことに気づいた。彼は剣士だと言っているが、彼の実力からしてそんなはずはない。剣士系列なのは明らかだが、それ以外は不明。

 しかしこの場でそれを聞くのは野暮だと思ったので、そのままスルーした。

 それからガイが自分、アルフレッド、シンシア、ミーナの紹介する。

 ミーナの職業を紹介する時はその場にいる人は皆驚いていた。

「僕はルージュ・ベルベット。戦士だ」

 向こうのパーティのリーダーが自己紹介するのに続いて他のメンバーも紹介を始めた。

「俺はシフ・ガンデック。格闘家だぜっ!」

「僕はグリーン・バードだよ。吟遊詩人なんだけど、出逢いの曲でも聴くかい?」

「そんなん聴かんし!

 あ、うちはウィッチのトトリ・クランベルって言うんよ! 皆、よろしくね〜」

 アルフレッドの横で、ガイが「俺、こいつら苦手かも……」と耳打ちしていた。

 しかし、アルフレッド達それにとっくに気づいていた。


「さて、紹介も終わったことだ。本題に移るぞ。

 今回作戦は班ごとに殲滅する敵がそれぞれ決まっている。儂らの担当は森の南部、第六エリアだ。

 出発点だが、二手に分かれる。儂とルージュのパーティ。それとライドとガイのパーティだ。

 儂達は西から進行、ライド達は東から進む。その際に魔物が出現すると思うがそれらは全て殲滅してよい。

 目標の魔物だが、森を荒らす巨大な魔物、巨雄牛<タウロス>だ。こいつはとにかく巨大で、力が強い。一点に集まって戦うとすぐにやられるから、囲む様にして戦うんだ。

 ブリーフィングはこんなものだ。如何せん、敵の情報が少なすぎるからこの程度しか作戦を立てられないというのが本音だ」

「まあ、何とかなるだろ」

 ライドが楽観的な意見を加えた。

「うっひょー!! 燃えて来たぜ! やるしかないな、皆!!」

「言われんでも分かっとうし!」

「それより、僕のバラードを聴かないかい? 今、いいフレーズが思い浮かんだんだ」

 アルフレッドは、ルージュに話しかけた。

「楽しそうですね」

 ルージュは笑って返す。

「全く世話が焼ける奴らだよ。でも、あいつらといると、いつも楽しくてね、飽きないんだ」

 アルフレッドも、同じことを思った。ガイやシンシア、ミーナといると飽きない。

 だから、このパーティも自分たちのパーティがそうである様に、彼らにとってかけがえの無いものなんだろう。

 アルフレッドはそう考えていた。

「アルフレッド君、お互い頑張ろう」

「頑張りましょう!」



 バルドロやルージュのパーティと別れて、出発点に到着した。

「いいか、一二00から作戦開始だ」

 アルフレッドはライドと共闘するのは久しぶりでわくわくしていた。

「少しは強くなっただろうな?」

「うーん……実感は無いですけど、実戦は積みました」

「そうか、なら成果を見せてくれよ」

「はい!」

 その時、ミーナが何かを感じた。

「……シンシアさん、何か嫌な気配しません?」

「奇遇だな。私も思った所だ」

 しかし、ライドは何もせず、時刻を確認している。

「残り三十秒……」

 ここで、ライドがアルフレッドに呟きかけた。

「お前のパーティメンバーいい勘してるじゃねえか。

 先に行って巨雄牛までの道確保しといてやるからさ、ちょっとここは任せるわ」

「え?」

 アルフレッドにはあまり理解出来なかった。

 そしてそのまま、時は訪れる。

「作戦開始だ!!」

 ライドは走り出した。アルフレッドは追いかけようとするが、シンシアに止められた。ガイは冷や汗を流していた。

 そしてやっとのことで事態の深刻さに気づく。

 夥しい数の魔物がアルフレッド達の周りを囲んでいた。


  完全に囲まれた。迂闊だった。この状況はあまりに分が悪い。此方は四に対し彼方は数十。此方の全滅は必至だ。

「さて……どうしたものか」「俺が広範囲魔法で吹き飛ばせば……」

「馬鹿、私達までダメージ負うでしょ」「く、そうだな……」


「私に、任せてください」


 静かな森の中で、一際高い声が響いた。

「私がやります」

 声を上げたのはミーナだった。

「ミーナ、お前一人じゃ無理だ」「この前とは数が違う……いくら上級職だからって無謀すぎる!」

「違います、私は戦いません」

「は?」

 三人は、空いた口が塞がらなかった。


「戦うのは、貴方たち三人。私がやるのは——皆の統制です」


「私を中心に、三人は展開してください。

 二時方向にガイさん、十時方向にシンシアさん、そして、六時方向にアルフレッドさん!」

 ミーナの指示に、戸惑いながらも従う三人。

「シンシアさん、三本矢をセットして! ガイさんは中範囲炎魔法詠唱開始!

 アルフレッドさんは2/3πラジアンの範囲で飛来する魔物を斬り落としてっ!」

「詠唱完了だぜ!」

 ガイの詠唱が終わり、魔法を撃つ準備が整う。

「10%の出力で私の視点から零時方向、四時方向に一発ずつ撃ち込んでください!

 シンシアさんは反時計回りに敵を駆逐していってください!」

 ガイが炎を撃つ。低出力のために速度も遅く、避けるのは魔物にとっても容易である。

「そこで一から三時方向にまとめて八割分撃ち込んでください!!

 すかさず狭域型風魔法の詠唱開始、魔力残り23/40。

 零時方向に移動して!魔力は 残り25%まで使用していいです!

 シンシアさんは持てるだけの矢を用意してください!

 アルフレッドさんは四時方向に移動!なるべく善戦お願いします。少し位通してもいいです、防御魔法は使用済みです」

「まずい!! 仕留め切れない!!」

 敵を着実に射止めていたシンシアだが、数の多さに圧倒され、眼前までの侵入を許してしまった。

「そのまま撃ってください!!」

 近距離で矢を射るのは、初速度の関係で全く威力を生まない。ミーナとてそれを知らないわけではないだろう。

 シンシアは理由を聞きたかったが、今はそれどころではない。また、ミーナのここまでの統率に狂いは無い。それ故、シンシアはそれに無言で従う。

「ガイさん! 風を矢に撃って!!」

 ガイはミーナの言葉に、反射的に風を打ち出す。

「そうか!風によって初速度を…!!」

 零距離で放たれた矢が風魔法によって速度を有し、目の前の魔物を貫いた。それは弓矢単体で生むことの出来ない威力を発揮していた。

「続けて同じ要領で残りを殲滅してください!

 アルフレッドさん、回復します!」

 かなり疲弊していたアルフレッドに、いいタイミングで回復魔法が放たれる。力を取り戻したアルフレッドはすぐにまた魔物を斬り続けた。

「ガイさん、『焔』準備お願いします!」

「お前らにも当たるぞ!?」

「構いません! 炎無効領域を作ります!!」

ミーナの足下を中心に、半径一、二メートルの円が出来る。それが炎無効領域だった。

「アルフレッドさん、シンシアさん、この中に入って!!」

 アルフレッドとシンシアが無効範囲内に入る。

「ガイさん、撃っちゃってください!!」

「『焔』ああぁぁぁ!!!!」

 辺りが煙に包まれた。

「げほっ……勝ったか……?」

 煙が晴れると、魔物は皆地面に倒れ絶命しており、周りの木々は完全に黒炭と化していた。

「終わったぁ〜」

 ガイが気の抜けた声を出す。

「何が終わったですか? まだ始まってすらいませんよっ!

 でも、ガイさんのお陰で大分楽に戦闘が進みましたよ」

 ミーナはにっこり笑うと鞄から液体の入ったビンを取り出し、ガイに与えた。

「魔力を沢山使わせてしまったので……これを飲んで回復してください」

 ガイはそれを受け取り、ごくごくと一気に飲み干した。

「しかし、何でこんなことが出来るんだ?

 普通の人間にこんな芸当出来ないだろう?」

 ガイはミーナに問う。

「私、前に戦術師もかじったことがあって……。

 戦略学とか興味があったから、こういうの得意なんです」

「祓魔師に戦術師かよ……何者なんだよ、お前……」

「一般人ですよ! シンシアさんと同い年です!」

「世の中の苦労して中級職の奴とか泣くぞ……」

「それは私のせいじゃないですし……ライドさんが待ってるんじゃないですか? 先を急ぎましょうよ」

 ミーナとガイが行こうとして、アルフレッドとシンシアがそれについていこうとした。

「なあ、アルフレッド……」

 シンシアがアルフレッドに話しかける。

「何だ?」

「やっぱお前鈍感なのかな……後ろ、見てみろ……」

 アルフレッドは後ろを振り返り、また前を向き——もう一度後ろを向いた。

「なっ……!? 子供おぉぉ!?」

「おにいちゃんたち、なんでこんなところにいるの?」

「それはこっちのセリフだ!!」

 幼い少女が、街外れの森に現れた。

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