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第四話 勇者:巫女さん?

「あぁそうさ!これは俺が自分で選んだ選択だよ!誰も悪くない・・・いや後藤!お前が悪い!」


「もー。うるさいってば山手」


こうして俺は泣く泣く後藤と二人で暗い夜道をひたすら歩き続けている。正直、足も痛いし帰りたい気持ちだったが、ここで帰れば部屋を変えられることは目に見えていたのでグッと我慢する。

それに内心では期待もしていた。このまま神社なんて見つからずにそのまま帰れはしないだろうか、と。しかしその期待はものの数分で砕かれた。


「お?ここじゃないかな」


後藤が言ってライトをかざした。そこには古い石段が懐中電灯の光でぼんやりと照らし出されていた。上を照らすも、一番上までは光が届かず、不気味な闇が広がっている。石段はずいぶん古いらしく、ところどころ黒い部分(おそらくは”こけ”だろう)がくっついている。


「先が全く見えないな。きっとここが例の心霊スポットの神社だよ」


行こうぜと笑う後藤を止めたい衝動に駆られるが、ここは覚悟を決める。

もうこの際だからさっさと行ってさっさと帰ろう。

俺は自分を奮い立たせて、石段へと足を延ばした。


上がっていくと上の方からもの音が聞こえてきた。


え……マジなの?マジでここ心霊スポットなの?


となりを見ると後藤が目を輝かせていた。


うん。知ってるよ。お前こういうの望んでたんだよな。


「わっ今の聞こえた?山手!ヤバイ!物音すげえ!うわー、楽しくなってきた!これこれっこういうのを待ってたんだよ!なあ、なにか見える?」


いつも以上に興奮している後藤は、はっきり言って気持ち悪い。これは友人として言ってやるべきだろうか。イケメンでも許されないレベルのキモさだぞって。


「見えねぇよ。つか帰ろうぜ。なんかヤバイって」


一応忠告してみるが今のこいつが聞くわけがない。

勝手にどんどん上がって行く。


「ほら。山手も来いって」


おまけにぐいぐいひっぱってくるし。


「わかった!分かったから頼むから引っ張らないでくれ」


袖を引っ張る後藤を振りほどいてしぶしぶ後に続く。


うゔ…上も気になるけど、この階段も気が抜けない。


なんせ段の幅狭いし急だしボロいし歩きにくいし俺、今、足ヤバイし!


長い階段がまるで俺の日頃の運動不足をあざ笑うようにどこまでも続いている。


もちろん錯覚だ。


嘆いているうちにいつの間にか階段は終わり、一番上、つまりは最後の一段を登り切っていた。

音がするから誰かいるとは思っていたが、人が踊っているとは思わなかった。


さすがにバレるとヤバそうなので懐中電灯を消して暗闇に慣れてから目を凝らす。


月明かりがあれば儲け物だったが、残念ながら今は雲に隠れているので、あまりよくは見えなかった。

かろうじて、その人がきてる服が着物(神社だから巫女服だろうか)だということはわかった。


ふむ。舞の練習だろうか。


それにしてもこんな遅くにやらなくてもいいだろう紛らわしい。


しかしただの人だということに安心してしまった俺は、なんとも馬鹿なことにもっとよく見ようとしてしまったのだ。


それこそが、最大の失態だった。




……………うん。見間違いだ。


だって現実的にあ、ありえないし?

ヤバイな俺。

脳みそがゲーム脳になってきてる。


だって巫女さんの周りになんかブヨブヨした"なにか"が見えるんだもの。


これは"なにか"としか言いようがない。


まるで某ゲームのチュートリアルで現れる愛すべき雑魚キャラのメタルキングのようだ。


てかアレ完璧メタルキングだよな。


なんだよーやっぱ現実世界にいるんじゃんメタルキング。


そうだよなあポ○モンだって山奥探せば見つかるって言うし、あー良かった~なんだただのメタルキングか。


………って、そんなわけないだろ!



「…なんか半透明のブヨブヨしたスライムみたいなのが見えるんだけど、俺、ヤバイな」


「なんだ。山手も見えてるんじゃん」


「え…?は…!?も、ってまさか後藤、お前も?」


「あぁ。見えてるよスライムみたいなの」


ぼんやりとだけどと笑う後藤。


嬉しそうだな後藤。そりゃ見たい見たいって言ってたもんな。

いや、これは喜んじゃダメだろ!


俺たち2人して変な幻覚見ちゃってるだけじゃないのこれ。


だってメタルキングだぞ?


ポ○モンならまだわかるが、メタルキングがなんで神社にいるんだよ。お前の定位置は地下のダンジョン一階だろ。


思考が完全におかしくなってきている俺に構わず、後藤がメタルキングに近づこうとしたので俺はあわてて止める。


「ばばば馬鹿野郎!なに考えてんだ!」


「だって近くで見たいじゃん。巫女さんにもなにしてるのか話聞きたいし」


なんでお前そんな冷静でいられるわけ?


俺は半ば混乱しながらまくし立てた。


「馬鹿か!?スライムだからって甘く見てるとHP半分くらい持ってかれんだぞ!」


「……山手、落ち着いて。これ、ゲームじゃないから」


後藤になだめられた!屈辱っ!


「え!うわあ!なにあれ!」


後藤が突然叫んだのであわてて向こうをみると、ちょうどメタルキングが巫女さんに真っ二つにされるところだった。


「な、なに今の…勇者か…勇者が現れたのか!」


「山手くーん。しっかり現実を受け止めなさい?巫女服着た勇者なんていないよ…ってあれ?なんかこっち見てない?」


後藤の最後の言葉に血の気が引いていく。

恐る恐る巫女さんを見ると……


「き、狐……」


狐に化かされたのかはたまたただのお面なのか(おそらくは後者)、とにかく狐顔のそいつはジッとこちらを確かに見ていた。


あまりの恐怖に声もでない俺を、月明かりが照らす。同じように巫女さんも月の光に照らされ、さらにはっきりと現状がよく見えてしまう。


巫女さんの服は白いところがないくらいに赤黒く染まっていた。もちろん模様だと思いたいが、こういう時に限ってなぜかそれが血だということがよくわかってしまうのだ。


しかし、スライムって血は赤いんだな。


現実逃避したい俺に追い打ちをかけるように巫女さんの手の中で銀色の何かが煌めいた。


長い銀色の何かを持った巫女さんがこちらに来そうで俺は恐怖で声が出ないまま、後藤の腕を引っ張って急な階段を転がるように駆け下りていた。


「ちょっと山手!離せって!」


後藤が文句を言っているが、関係ないね!


だいたい今の俺に返事をする余裕はない。

足が痛いのも忘れて足場が悪い階段を駆け下り、林を抜けて来た道を全速力で戻る。


後ろで誰かに呼び止められた気がしたが、恐怖に駆られた俺が振り向けるはずがなかった。

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