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道化烏



 ロフォラは、自分の部屋へと帰る途中、辺りを見回した。王がフォルビィの部屋を訪れた後は、よくあのヒシュの男に呼び止められたものなのだが。

 やはり女共が噂をしていたとおり、キリルは生きてはいないのだろうか。部屋に帰れば弟がいるだろうと思い、足を水場に向ける。スコール明けのこの時間なら、誰もいないはずだ。王が城にいるから、女共も、油を売ってはいないだろう。ただ、澄んだ空気が吸いたかった。

 だが水場には、女達の輪が出来て、騒めいていた。

「……?何をやっているんだ、お前達? 王がおられるのに」

 馴染みの栗色の髪の下女が、振り向いて笑いかけてくる。

「なにって、ミューザ様は、戻られてすぐにまた出陣されたもの――」

「ついさっきまで、フォルビィの所におられたぞ」

 女達は、互いに顔を見合わす。最近の王はめったに城にいないし、一見、以前と比べものにならないくらい穏やかに見えるらしいから、彼女達も気が弛んでいるらしい。久し振りに王と会ったロフォラは、結局一度も目を合わせることが出来なかったが。

「まあ、出陣する足で、立ち寄られただけかもしれないが……」

「きっとそうよ。それよりロフォラ様、見て!すっごく賢い烏がいるの」

 女達の輪の中で、ぴょんぴょん跳ねながら愛敬を振りまいているのは、もちろんあの烏だった。

「お前は……。今まで何をやっていたんだ!」

「あら、ロフォラ様、お知り合い?」

「烏の知り合いなんて」

「あたい達、愛し合っていたの。あたいを捨ててリーズを旅立ったあの人を追って、あたい……」

 黒い羽根で顔を隠し、儚げな声でよよと泣き崩れる烏に、女共は喝采する。

「あたしも愛しい人を追って旅に出たーい」

「私は、逃げたりしない男がいいなぁ」

 この城に仕えている彼女達が、娯楽に飢えているのは仕方ない。以前は城下に降りて息抜きも出来たようだが、今はそれがない。城外に出ることを禁じられているわけではないが、旅芸人も読み語りも吟遊詩人も、なにひとついないらしい。それどころか、殺気だった戦士達が町中を練り歩き、無事帰ってこれるかどうかもわからないありさまだという。

 突然、笑いさざめく女達の声を破って、遠雷が轟いた。

 皆は静まり、高い空に薄くなびく雲を見上げる。

 その視線にのって、黒い翼が舞い上がり、そして再び舞い降りる。

「王は赤き翼をひろげ、忠実なる兵士達の間に降り立った。兵士の突き上げる拳は剣を握って密林を伐り開き、兵士のあげる叫びは雷となって敵を撃ち倒すだろう。讃えよ。汝が死を奉じるのならば、滅びをもたらす、猛々しい王を」

 太陽の下でも輝く月のごときロフォラの肩に止まり、空から見た城下の様子を吟遊詩人のように朗々と謡う烏に、今度はしわぶき一つせず、女達は見惚れた。

「うるさい。耳元で騒ぐな。このバカ烏」

「そんなひどい、バカだなんて……あなたみたい」

 ロフォラは、手加減なしで烏を叩き落とそうと手を振るが、あっさりとかわされた。馬鹿にしたように一声鳴く烏を、本気で殺意を込めた目で睨みつける。

「本当にこの烏と知り合いなの?」

「だからそう言っている」

「言ってないわよねぇ。愛し合ってたっていうのは、烏さんから聞いたけど」

 女達にからかわれて、ロフォラは頭を抱えた。

「そいつは、月の力を受けたリーズの烏なんだ。油断してると、目の玉を突かれるぞ」

「えー!?」

 け――っとおかしな雄叫びをあげている烏を無視して、一、二歩輪を拡げた女達に尋ねる。

「それよりお前達、キリル殿が今何をしているか、知らないか?」

「あの……前に言わなかったかしら」

 王付の侍女が、ためらいがちに口を開いた。

「はっきりとは聞いていない……が、そういうことか」

 やはり、王に殺されているのか。だが――

「なぜだ?」

「なにが?」

 キリルは、フィガンの娘を追っていた。ランデレイルを攻めたのも、そのためだろう。それに失敗したから殺されたのか。だが、民を皆殺しにしようなどと、あのキリルが望むはずがない。それを望むのはミューザだ。ということは、王が民を皆殺しにしようとしたのを諌めて、キリルは殺されたのか。

「なんでもない」

 侍女の問いに首を振って、ロフォラは考え込んだ。フォルビィの毒は、王を殺すよりも先に、寄生木を枯らしたようだ。フィガンの娘を調べることが出来なかったのは残念だが……。いや、烏がいるか。ミューザが出陣したのならば、フェロもそれについていったはずだ。もう部屋にはいないだろう。

「あら? ロフォラ様。もうお戻りになるの?」

「ああ、また明日な」

 女達に背を向けて、右手を挙げるロフォラの頭に烏が飛び乗り、女達の笑いを誘う。女達に向かって翼を振る烏に肩を震わせて耐えながら、ロフォラは己れの部屋に向かった。



いつもありがとうございます。

いよいよ物語の核心にせま……るかな。


次回予告ぅ。


「いいオンナがいた」

烏の答えに、ロフォラは頭をかきむしった。しかし。


10/16 三幕第三話「昔語り」更新予定。


うちの祖母ちゃんのお姉さんは、烏を引き連れて散歩しているそうな。かっこいい^^

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