ささやかな宴(うたげ)
ずっと騒がしかった店の外が急に静まり返り、女がひとり、ちょうど客のいない店に入ってきた。
「おや、あんたは」
店の奥に座っていた老婆が立ち上がり、両手を広げてよたよたと歩み寄る。
「あんた達がこの城に入ったと聞いて、驚いてたんだよ。まさか来てもらえるとは思わなかった」
「すまない。すぐにでも来たかったんだが、忙しくてな」
「とんでもない。この店を憶えていてくれただけで十分だよ」
「……ずいぶん、外がにぎやかだったが、何かあったのか?」
老婆は、なぜか静まり返った店の戸口に目を遣った。
「いやね、隣のぼろ家に、治療院を開いてくれるっていう奇特な人がいてね。気が変わらないように、みんなで修繕をしてるのさ」
「そうか。ところで、あれはあるか? 牛の内蔵の煮込み。あれをもう一度食べたくてな」
「もちろんさね。この町に人が増えたんで、ここんところ、前の倍仕込んでるんだ」
さあ、座りな、と手近な椅子を引く老婆に、切り出す。
「実は、もうひとりいて。その人と、もう一度ここのモツ煮込みを食べようと、約束してたんだ」
「誰だい。まさか、アルビルかい?」
「いや、そうじゃない。入れていいか?」
「あたりまえじゃないか」
女は、戸口から外へ手招きし、そして大きな人影が、店へと入ってきた。老婆は息を呑み、よたよたと、椅子に崩れ落ちる。なぜ店の外が静まり返ったのか、わかった。
「改めて紹介するよ。ロウゼンだ。今日、私の夫になった」
すこし照れ臭そうに、グルオンは新しい夫を紹介した。以前、レイスが彼女を紹介してくれたように。
二人の前には、大鉢に盛ったモツ煮込みが置かれ、ほかにも米の麺と香草の炒め物や、豆と根菜の炊き合わせ、雉肉の串焼き、甘藷と胡麻と蜂蜜を練り合わせたお菓子などが並んだ。城主の婚姻祝いとしては、質素なものだが、もちろんロウゼンは気にしない。皿が置かれる端から、平らげていく。
「おばさん。あの時の酒はあるかな?」
料理を運び終えて一息ついた老婆に、グルオンが尋ねた。
「もちろんさね。城主様にも、ぜひ――」
「いや、この人には、甘いやつを薄めて持ってきてくれないか? 好きなくせに、滅法弱いんだ」
老婆は、驚き呆れた様子を隠しきれずに、酒の用意をする。それでも震える手で置かれた酒の椀を、ロウゼンは手にとって、舐めるように口に含む。それだけで、顔だけでなく剥出しの腕まで真っ赤に染まった。
その様子を、微笑みを浮かべて、グルオンが見つめている。さらにその様子を、老婆が、そして戸口の外から、店の前で騒いでいた者達が、伺っている。
おいしいものを食べて、うまい酒を飲んで、好きな人と一緒にいて、出来れば二人の子を育んで。それだけで人は生きていくのに十分なはずなのに、この時が過ぎれば、人は戦わずにはいられない。ならば、私はこの人を護るためだけに戦おう。
この人は――
私の何のために、戦ってくれるのだろう?
あれ? 前回のあとがきがほとんど消えてる。
……ま、いっか(爆)
いつもお付き合いいただき、ありがとうございます。
まずは宣伝。
夏ホラー特設サイトに書き下ろしていたホラー二作品、こちらに再投稿しました。
「最後の一葉」
「無精卵」
秋の夜長にショートホラーをどうぞ^^
で、赤天も次回よりミューザ編に戻ります。
ってことで、
次回予告。
「私は、あなたを殺さなければならない」
「ならばなぜ殺さない」
それは『愛』なのだろうか……
三幕第一話「毒蟲と番うのは毒蟲だけだ」
10/9 更新予定。
愛って……(照れ