表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/119

けっこん




「あっ、いたいた。サムジィさん、今いいですか?」

「おお、マーゴ。なにかの」

 マーゴが呼び止めたのは、歳はもう二百近いだろう、つるりとした頭の老人だった。だが、背も腰も少しも曲がっておらず、かくしゃくとしている。厳しい、頑固そうな面構えだが、マーゴを見る目は優しい。この城の官僚の長、管理官のサムジィだ。

 歩きながらでいいかの、という老人について行きながら、その深い皺の刻まれた顔を見上げた。部下の役人どころか、グルオンにさえ厳しい言葉をためらわない人物なのだが、マーゴとペグにはとても優しいので、この老人にはつい甘えた口調になってしまう。

「あのね、グルオンさんとお父さんが結婚の契約を結んだの」

「ほう、そうかい。今グルオン様と話しておったが、何も言われなんだがな。それは、公にせねばならん話かな?」

「……え、どういうことですか?」

 思いもよらぬ問いに、マーゴは首を傾げる。

「城主の婚姻というのは、結構大事でな。城内どころか、城下すべてで盛大に祝わねばならん。ところで今、この城に城兵は何人おる?」

「え……と、四万人をちょっと超えるくらい」

「そう、そしてさらに増え続けておる。税で養える兵は、およそ三万。残りの一万とちょっとと今日また雇った分は、貯えを切り崩していかねばならん。そこで、盛大な祝宴を張れば、どうなるかの」

「お金が足りなくなる……?」

「そういうことじゃ」

 サムジィは、わざとらしく顔を顰めてみせる。

「なにも盛大にじゃなくていいの。お城の中で、ささやかな――」

「そうすれば、城下の者が、不満に思おう。ただでさえ、今城下はごたごたしておる。わしもな、そう聞いたからには祝いの宴を開かねばならんが、ロウゼン様から聞いたわけではないからの。忘れよう」

「えーーー」

「グルオン様が何も仰らなかったのは、そのことを承知しておったからじゃろう。あの方もこの城にきてから、苦労しておるからの。ようやく気が回るようになってきおった」

「……せっかく結婚式、観てみたかったのに」

「まあ慌てんと、お前さんに好きな男が出来たときに、とっとくことじゃな」

 ほっほっと笑いながら、左門へと向かう戸口をくぐる。役所にある自室へ帰るのだろう。サムジィは、マーゴがロウゼンの実の娘でないことは知っているが、彼女の力も、彼女が大人になれないことも知らない。

「……うん」

「おっ。ペグのお帰りじゃ」

 門番が開いた扉の隙間を、ペグと獣がくぐり抜けてきた。すぐにマーゴに気づいて、駆け寄ってくる。

「ペグさん。お帰りなさい」

「うん。おなかすいた」

「うむ。元気で結構。それじゃあな」

「あっ。おやすみなさい」

 サムジィを隠して、扉が閉じられる。それに手を振ってから、小さな妹を見下ろした。見るたびに、背が伸びているような気がする。

「泥だらけじゃない。体拭いてあげるから、それから一緒に食べましょ」

「うん。あのお兄ちゃんたちがいたよ。このおしろにいっしょにきた」

「ああ、トリウィさん達? 今日お城にも来てた。――豹もお腹すいたの?」

 マーゴの躰に頭を擦りつけていた豹が、なあ、と鳴いた。

「すぐにお肉をあげるからね。あのね、ペグさん。お父さんが、グルオンさんと結婚したの」

「けっこん?」

「そう。グルオンさんが、わたし達のお母さんになるの」

「ふーん」

「……ふーんって、それだけなの?」

「うん。豹、いこ」

「あっ。ペグさん!」

 ふう。溜め息を吐いて、マーゴはペグを追いかけた。



10/6更新予定!


稲刈りの日だ^^;

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ