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道行く少女



 騒めきが、完全に陽の落ちた通りの先から、梢を渡る風のように近づいてきた。妙に沈み込んでしまったトリウィを訝しみながら歩いていたラミアルが、顔を向ける。

「あっ、トリウィ、あれ」

「何だよ? ……うわっ!」

 ランデレイルからの避難民を受け入れているせいだろうか、以前訪れたときよりも、ずいぶん人混みが濃い。その真ん中に一直線の道を拓き、一匹の獣とひとりの少女が姿を現した。

 店先に灯る明かりと丸みを帯びてきた月の光を浴びて金色に輝く豹と、傍らを歩く泥と草の色に染まった女の子。

「ペグちゃんじゃないか。おーい、ペグちゃーん」

 さすがに豹の行く手を塞ぐことは出来なくて、通りの端によった人垣の中から、トリウィが手を振った。

 だがペグは、口をへの字に結んだ顔でトリウィを一瞬見遣り、足も止めずに通り過ぎる。

「あらら、覚えてないのかな。……どこ行ってたんだろう」

 すぐに崩れた人垣にもまれながら呟き、城の方に目を向ける。ペグの姿はもう見えないが、どよめきが遠ざかっていくのが、聞こえる。

「あんた、今朝宿のみんなが話してたじゃない、聞いてなかったの?」

「何を?」

「あの子、しょっちゅう豹と連れ立って、密林へ遊びにいってるって、なんか知らないけど、大人気みたいよ。さすが蛮王の娘だって」

「へぇ……」

 昨日の夜にこのロイズラインに到着したのだが、ランデレイルの時のように、ロウゼンの悪口がほとんど聞かれなかったのは、彼女のおかげがあるのかもしれない。

 ただ、ランデレイルからの避難民が、数多く流入してきているから、必ずしも治安がいいとは思えない。ここにくるまでに想定していたよりはましだというものの、あちこちで怒号や悲鳴が聞こえることも、めずらしくない。何か火種があれば、すぐにでも暴発しそうだ。もちろんそれも折り込んだ上で、ラミアルは城内での取引を望んでいるのだが。

「密林って、子供ひとりで歩けるところじゃない、よね」

 トリウィがトワロに訊いた。

「ええ、普通はね」

 トワロも軽く目を見張っている。大人の戦士でさえ、密林をひとりで行くことは、非常な危険がともなう。単独で狩りをすることもある森の民でさえ、子供をひとりで密林を歩かせることはない。

 だけどあの娘……もうヨウシュの力が発現しているという……

「どうしたの?」

「……なんでもないわ」

 ラミアルの視線に首を振る。

 ヨウシュは、キシュはもちろんヒシュと比べても体力的には劣る。トリウィがマーゴから聞いたというが、ペグのヨウシュとしての力は、呪文もなしで、瀕死のロウゼンを回復させたほどだという。子供の頃はほとんど差はでないといえ、優れた力は他の能力を衰えさせる。ならばペグは、普通の子供と比べても、体力が乏しいはずだ。それなのに、豹の成獣と一緒に密林で遊んでいる?

 まさか……ね。この術は、そう簡単に身につけられるものじゃないはず。考えすぎでしょう。もう一度トワロは首を振った。

「ラミアル、今日は疲れたでしょう。もう宿に帰って休みませんか?」

「そうだよ。腹減ったよ」

「あんたはもう、そればっかり。でも、そうね。今日はもう休もう」


いつもありがとうございます。

今更新部分より三回、ちょっと短めでお送りします。

なんかきりが悪くって。

そして、前回まであとがきでお送りしておりました小走りホラー番外編。夏ホラー企画の終焉とともに、まとめて投稿しちゃいます^^;

夏ホラーサイトに書き下ろした二編も同時にupする予定ですので、あらためてよろしくお願いします。


次回予告。


「あのね、ペグさん。お父さんがグルオンさんと結婚するの」

「けっこん?」

マーゴの言葉に、少女は不思議そうな表情で見上げた。


二幕第十二話「けっこん」

10/2更新予定。

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