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「もし、あなたがご存知であれば、それを教えていただきたかったのですが」

 ロフォラの驚き様が、嘘ではないと見切ったのだろう。キリルは諦めたように笑った。

「リーズにも、そのような術はありませんか」

「聞いたこともありません」

 ロフォラとて、リーズ法国で編み出されたすべての技術を知っているわけではないが、リーズの者が、わざわざ下界でそのような研究をする理由がない。

「ミューザ様が援助しているのであれば、直接その者に訊けばよろしいではありませんか」

「ランデレイルが落とされたときに、フィガンも命を落としました」

「その……娘はどうなりました」

「それが、千の戦士を倒したというのが、そのランデレイル城での戦いの時で……。倒されたのも、ランデレイルの城兵なのです」

 キリルは、肩を竦めた。

「詳しい経緯はわからないままですが、どうやら、現在のランデレイル城主である、ロウゼンという男に誑かされたようで、彼の娘を名乗っているという話なのですが。――どうでしょう、本人を直接調べることが出来れば、どんな処置がその娘に施されたのかを知ることが出来るでしょうか」

「それは……。見てみなければどうにも――」

 しかし、ロフォラは興味をもった。彼にも、法の子としての強烈な自負が、下界の術者など、足元にも及ばぬという誇りがある。己れをはるかに超える力を持つというその娘を、ぜひその目で確かめてみたかった。

「その娘を、捕らえることは出来ますか?」

「それが、なかなか難しくて……。あなたには、詳しい情報からは遠ざかってもらっておりましたのでご存知ではないと思いますが、そのロウゼンという男は森の民の出でありながら、アデミア王の盾と呼ばれた戦士と、フィガンの娘と、それだけでランデレイル城に乗り込んで、当時の城主の首を獲ってしまったのです。それどころか、四、五歳くらいの女の子さえつれて」

「…………」

 城兵でない戦士が独力で城の主に収まった例は、統一王の御代から数えて四度ある。

 しかしそれは、法の子の戦士が、使命によって王の粛正に動いた結果だ。ならば、ロウゼンという男の為したことは、統一史上、初ということになる。が、それだけだ。その気になれば、フェロでさえ、独力で城を奪うことが出来るはずだ。それなりの準備は必要だろうが。

「たしかにその時ランデレイル城は手薄だったのですが、それでも二千三百の兵が詰めていました。その場にいた城兵の報告によれば、娘が力を発動して半数近い兵を倒し、それをフィガンが封じたものの、その混乱に乗じて城主が討たれたそうです。そして、その後フィガンも。ただ、軍資金もほかの城に移したばかりでしたので、奪い返すのは容易いことだろうと、王が戦に出ておられるときに、私も同盟を結んでいる城に命じて、ちょっかいを出させたのですが――」

 両眉を上げ、掌を天に向ける。

「あっさりと返り討ちに遭いました」

 笑うわけにもいかず、ロフォラは首肯いた。

「それでまあ、腰を据えてじっくりと攻略しようと思っていまして。まあ、時間の問題だと思っていますが。その娘を捕らえることが出来れば、力の解明に手を貸していただけましょうか?」

 ロフォラにとっては、願ってもない申し出だが――

「いいのですか? 私のようなものに」

 彼はミューザの勢力にとっては部外者、いや、それ以下のものだ。キリルの話が本当であれば、その娘は大陸統一への大きな力となるだろう。決して他に、少なくとも、王の暗殺などを目論む者に洩らしていい話ではない。

「あなたは、積極的に我が王を弑せんと企んでいるわけではないようですから。ならば、王が生きている間は、あなたは我々の味方でしょうし、王が亡くなれば――」

 皺が浅くなる。

「その力がどこにあろうと、どうでもいいことです」

「貴殿は、なぜミューザ王に仕えておられるのです?」

 ロフォラは、ふと、キリルに訊いた。彼の王に対する忠誠心は、揺るぎないように見える。もし、彼がキシュであるならば、それは決して不思議なことではない。城主や王と、戦士との関係は、統一法によって定められているし、主従契約も結ばれているが、そのようなものがなくても、キシュの戦士は力に惹かれる。そしてミューザには、王として忠誠を集めるだけの力と魅力が、その性質はともかくとして、あることは間違いない。

 しかし、キリルはヒシュだ。城に仕えるヒシュといえば、役所勤めの官僚がいるが、彼らは城主に仕えているわけではない。城主が城の主人だからその命には従うが、契約を結ぶわけでもなく、忠誠を誓っているわけでもない。

「おかしいですか? ――うーん、おかしいかもしれませんね」

 ヒシュは普通、損得で動く。ミューザに仕えて、何か得になることがあるとも思えない。

「ロフォラ殿は、このアロウナ大陸において、ヒシュの地位が不当に低いと、そう思われませんか?」

 金勘定しか能がないのだから、それも仕方ないだろう。ロフォラは、脳裏に浮かんだそんな言葉を呑み込んで、当たり障りのない答えを口にする。

「たしかに、王や城主と呼ばれることはありませんが、それをいうならヨウシュの方がもっと低いでしょう。ヒシュは行政を統べることが出来ますが、ヨウシュはそれも出来ません」

 役所の長である管理官には、城主ほどではなくても、農業組合の長や三軍の長と同じ程度の敬意が払われる。

「しかし、リーズ王はヨウシュでいらっしゃる」

「しかし、それは――」

「特殊な例、ですか?たしかに一般的ではありませんが、私が言いたいのは、そういうことではないのです。私は、伝説に名を残したい。キシュであるベルカルク統一王は、その名を永遠に語り継がれるでしょう。彼を助けたリーズ王も、忘れられることはないでしょう。彼ら以外にも、伝説として語り継がれる人々は多い。しかし、その中にヒシュはひとりもいないのです」

 キリルの口調が、熱を帯びる。体も心なしか、ロフォラの方へと乗りだしてきた。

「そのために、ミューザ王を利用しようと?」

 ミューザがアロウナ大陸を統一すれば、その参謀として彼を補佐するキリルも、たしかに歴史に名を残すだろう。

 しかしキリルは、首だけでなく、その細い体すべてを震わせて否定した。

「とんでもない。王は私ごときが利用できるようなお方ではありません。私に利用価値がある間は、王は私を生かしてくださる。私の願いは、王が大陸を統一されるまで私を使っていただき、結果、ベルカルクの盾のように、ミューザ王の知恵袋として語り継がれる、それだけです」

「ならばフォルビィの存在は、あなたにとって、大きな障害でしょう」

 キリルは、顔中の皺を、苦渋の形に刻む。

「たしかに、彼女を排除しようとすれば、私も死を賜るでしょう。ですが、彼女は必ずしも王のお命を奪いたいとは思っていないのではありませんか?」

 今度は、ロフォラが顔を歪める。

「彼女の想いは、使命を果たすうえで、関係ありません。その証に先程は、王自らフォルビィに触れられた」

「そして、ロフォラ殿が救ってくださった」

「……私がもう一度同じことをすると、期待しないでいただきたい」

 ロフォラは、椅子から立ち上がり、部屋の外へと、足を向けた。

「フィガンの娘の調査については、手を貸していただけると期待してもよろしいですか?」

「私もその娘には興味がありますから――」

 戸口をくぐろうとしたロフォラの背中に、雨音に混じって、嘲笑が聞こえた気がした。

 振り向けば、そこにはただ、揺らぐ明かりに表情を隠した男が、座っているだけだった。



いつもお付き合いいただき、ありがとうございます。

来週水曜日は夏ホラーの日。

私も参加しています。よろしければ、恐怖の祭典をご一緒に^^


   †

俺は町で拾った女と、霊園に来ていた。好都合なことに、誰もいない。

「ほんと、あなたしかいないものね」

――イキテイルニンゲンハ……

   †


次回予告っ!


「ずいぶんと、可愛げがなくなったじゃないか」

血の匂いを漂わせているフェロに、ロフォラは怯んだ。


一幕第十六話「弟」


8/14 更新予定


さてと、宣言したから、書かなくちゃ。

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