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法の子



「貴殿は、戦には?」

 キリルは大仰に手を振って、顔を顰めた。

「私などが戦場に出たとしても、役に立たないばかりか、足手纏いだと、王に斬られてしまいます。それで……」

 何か問いたげな目で、ロフォラを見る。

「何か?」

「いえ。私がこの間、あなたが言われたことを王に伝えたかどうか、尋ねられないのか、と思いまして」

「この間の……? ああ」

 フォルビィが王を殺すという未来は決定している。それをキリルが王に伝えようが伝えまいが、結果は変わらない。そんな話をした。

「結果は変わらないんだから、過程を気にしても仕方がないでしょう」

 そうはいっても、キリルが沈んだ様子なので、つい訊いた。

「で、伝えたのですか?」

「いえ、それが」

 ロフォラの言うことが真実だという証はないし、フォルビィに触れれば死ぬとわかっていて、王が触れるはずもない。それになぜか王はフォルビィを気に入っているから、そんなことをもし王に伝えれば、逆にキリルの方が切り捨てられる恐れもある。だから伝えなかった。そう言う。

「そんなことより、ですね。リーズ国では、人を造るのですか?」

「人を造る?」

 怪訝な顔で、ロフォラはキリルを見た。唐突に何を言いだすのだろう。

「フォルビィ様が言っておられたじゃないですか。子供の頃から毒を服まされていたと。あなたにしてもフェロ殿にしても、一般的な水準をはるかに超える能力をお持ちのようだ。お国では、そのように優れた人を造る業があるのではないですか」

「聞いておられたのですか?」

「別に立ち聞きしていたわけでは。王がフォルビィ様を訪ねられていたときに、戸口の外に控えていただけで。それで、どうなのです?」

 それを立ち聞きというのではないのか、そう思ったが口には出さない。

「フォルビィは、特別です。あのような育てられ方をした法の子は、ほかにはいません」

 うっかりと口にした言葉に、すぐに食いつかれる。

「その、法の子ですよ。情報を集めてみれば、法の子らという名前が、そこここに出てきます。それは、あなた方のことでしょう?」

 ロフォラは天井を見上げた。このことは、確か秘密にしておかなければならなかったのではないだろうか。だが、口外してはならないと、命じられたことはない。それにリーズからこんなに離れた場所で、ほんの数日情報を集めたくらいで、法の子らと言う名称をキリルが掴むことが出来たということは、自分が思っているよりも、秘密の保持はいい加減なものなのかもしれない。

 それに。

 使命には何の影響もない、はずだ。話してもいいか。

 笑い皺の刻まれた顔を、見つめる。同じ皺なのに、王の側に控えているときには苦労皺に見えるのはなぜだろう。

「両親の組合せによって、産まれてくる子供の能力に差があることをご存知ですか」

「ええ、まあ。詳しくは存じませんが」

 月の力をどのように受けるかによって、このアロウナ大陸の人間は大きく三種類に分けられる。

 主に身体の筋肉に力を受け、戦士や農民として暮らすキシュ。

 想いに力を受け、法術という力を使うヨウシュ。治療師や紋様師として暮らしている。

 そして頭脳に受けるのがヒシュ。記憶力や計算力にすぐれ、商人か役人になる。

 稀にケンシュという者もいるが、それはヒシュとして生まれた者が、成人したのちにキシュやヨウシュの力を合わせて発現した者のことで、種類としてはヒシュに含めることが多い。

 そして両親の持つ力の種類によって、産まれてくる子供の力の強さが変わることが知られている。

 両親が別々の力を持っている場合、産まれてくる子の割合は、キシュが圧倒的に多く、ヒシュはキシュの子百人に対して二人くらい、ヨウシュがさらにその半分ほどである。それぞれの力は、平均から大きくはずれることは少ない。

 両親が、キシュ同士、またはヒシュ同士の場合、産まれてくる子の割合は変わらないが、その力はばらつき、群を抜いて優れるもの、または劣るものが産まれることがある。

 もっとも、劣るとはいっても主たる力のことであり、ヨウシュであれば、法術が苦手な代わりに、体力的に優れていたり、キシュであれば、腕力に劣る代わりに頭が良かったりする。鋼自体に力を封じる元打ちの剣を鍛えることが出来るのは、自ら鎚を振ることの出来る、そんなヨウシュの鍛冶師だし、農業組合の長を務めるキシュは、戦士としては雑兵の役にも立たないことが多い。

 反対に、強力なキシュが協調性に欠けるせいで、すぐに戦場で生命を落とすこともよくあるし、強力なヨウシュが複雑な法術を習得できずに、結果としてロクな力を発揮できないこともある。

 めったにないことではあるが、ケンシュ同士が結ばれた場合は、必ずヒシュが産まれる。非常に稀なことなので確認はされていないが、その子供は、決してケンシュにはならないといわれている。

 そして両親がヨウシュ同士の場合、子供は産まれない。身篭もることすら稀で、たとえ懐妊したとしても、すべて妊娠初期の段階で流産してしまう。死産になることすらない。

 それをリーズ法国では、身篭ってから出産まで、常に複数の法術師が付き添い、母子共に、身を保つ術をかけ続ける。それによって、胎児は生命を失う事無く、出産日を迎える。結果産まれた子供は、ヨウシュ、キシュ共に非常に力が強く、ヒシュの子は、例外無くケンシュとなる。ただし、懐妊自体が稀なため、数は少ない。

「それが、法の子だと?」

「ええ、私の両親も、ヨウシュです」

 会ったことはないが。

「ですから、人を造っているわけではなく、産まれるはずのない子を、むりやり産ませる、という方がいいかもしれませんね」

「我々にも、それは可能でしょうか?」

「お止めになった方がいいですよ。そのような遣り方、リーズ以外の城で思いついた者がいないとは、とても思えません。それなのに他に産まれた例を聞かないのは、非常な困難が伴うのか――」

 産まれるまでの間、付き添わせておく法術師は、一体何人必要だろうか。常に癒しをかけ続けなければならないことを考えれば、十人やそこらではとても足りないだろう。しかも妊娠の兆候が現われてからでは遅いのだ。

「――実行しようとする者には、リーズ法国から刺客が送り込まれるのか。どちらにしても、手間が掛かる割に、それほど多くの子が産まれるわけではありませんし、普通の戦には、たいして役に立たないでしょう。私達のように、他の城主を暗殺するのであれば別ですが、それは法で禁じられていますから」

「それは、お国でも同じことでしょう?」

「ご存知ないですか? リーズ法王陛下は、統一法を護るためであれば何をしてもよいと、そう認められています。法を超越し得るただ一人のお方、統一王ベルカルクによって」

 キリルは、怪訝な顔で反論した。

「統一法を護るためですと? しかし我が王は、統一法を犯してなど――」

 ロフォラは眉を顰めた。

 そういえばそうだ。ミューザ王も自分でそう言っていたが、わざわざ自分達が手を下さなければならないほど大きな違反を犯しているようには、とても思えない。

 第一、法を犯したものを裁き、罰するのは法王の役目ではない。それは対立する他の勢力がやってくれる。

 ならば、法を護るとは、法自体を護ること。法を変えられるのは統一王のみ。ということは――

 ミューザ王を放っておけば、いずれこの大陸を統一するということか。

 そういえば、王の粛正などということは、ここ何百年も為されていない。それどころか、統一王の御代以降、それが為されたのはわずかに四度。法の子の戦士が王を戦場で討ち取るという形で行なわれたことがあるだけだ。

 そういった手段もとらず、わざわざフォルビィのような者を育ててまでミューザ王の生命を奪おうとしているということは……。

 陛下は、それだけミューザ王を恐れている。

「これから犯すのでしょう。フォルビィがすぐに王の生命を奪わなかったのも、そのせいでしょうね」

 千年樹を枯らすならば、若木のうち、か。頼る木を間違えた寄生木には迷惑な話だ。




ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。

あの……重大なお知らせが。


申し訳ありません。休載させていただきます。

もし、楽しみに待っていただいている方がおられましたら、本当に、なんと言えばいいのか分からないのですが……

これも、私の力不足ゆえでございます。



ということで。


次回予告。


ミューザが戦場から帰ってくる。そう聞いただけで、ロフォラの心は畏れに震えた。

――なぜだ。やつの未来を握っているのは、法の子たる俺なのに?


一幕第九話「畏れる心」

7/21更新予定!!



え?だから、あとがきの似非予告を休載……

ヤメテ、ケチャップを投げないでっ!!

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