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本性

「化物だ……」

 道の上のみならず、密林さえも埋め尽くす軍勢のすべての視線が、シージを見ていなかった。

 彼が、隠れ潜んでいるわけではない。戦場へ取って返すうちに呼び集めた、わずかな味方の戦士とともに、道の上で剣を構えている。途中サルトと出会ったが、彼にはロウゼンたちを追わせた。密林での戦いに慣れない奴等は足手纏いになる。だから手練れだけを残し、敵がかかってくればすかさず密林に駆け込み、わずかでも撹乱かくらんできればと思っていたのだが――

 耳を塞ぐ雨音に紛れて、かすかに届く嗤い声が、肌を粟立てる。

 泥色に煙る道の向こうに、赤い人影がいた。

 両手の剣が霞むたび、その人影のまわりに骸が転がり、吹き出す血潮をその身に浴びて、哄笑する。

 彼女は、舞ってはいなかった。

 敵の剣を紙一重で避けるという。彼女は違う。斬りつけ、突きかかってくる剣は、肌に触れていた。産毛さえ剃り落とすその刃は、しかし、彼女の肌に食い込むことはなく、撫でるだけで通り過ぎていく。

 それと同時に、血を吹き出しながら、剣の持ち主が崩れ落ちる。刃の削った血糊からのぞく白い肌を、すぐに新たな血が覆う。それが雨に流される前に、新たに粘る血が重ねられる。

 返り血を避けるために、速く大きく舞っていた、以前の戦い方とは違う。

 わずかな動きでかわし、頚動脈や、脇の下、内股などの大動脈を確実に切り裂く。勢いよく血が吹き出すのを、自らの身体で受けとめ、嬌声ともつかない嗤い声をあげる。

 血を避ける必要がなくなれば、法剣術の力を、何もすべて使う必要はない。

 法剣術は、想いに宿る月の力を使って、筋力と運動神経を強化する。だが、もともとキシュの力を合わせ持つ彼女は、血を避けるための動きさえ求めなければ、最低限の反射神経の強化だけで、戦いを支配できる。剣を避けることよりも、返り血を避けるほうが、はるかに難しいことだから。

 自分でも忌み嫌っている、熱い血のぬめりを、肌ざわりを好む質。それを解放する言い訳を見つけたいま、己れの欲望のままに行動するのに、何のためらいもなかった。

 たとえ後で、罪の痛みに苛まれるとしても。

 さらに三人の兵士が崩れ落ち、彼女に向けられた剣の輪が、じわり、と拡がった。

 なに? わたしがコワいの?

 足下に折り重なる骸を踏み越えながら、絹の肌ざわりなどまったく残っていない、血糊で張りついている着物の残骸を、引き剥がす。残ったぼろ布を、帯でようやく腰のまわりに巻きつけて、敵を剣で招く。

 さあ、おいで。

 戦いに臨んで、死の恐怖に震えぬ兵士はいない。死から目を逸らすことによって、自分だけは死ぬことはないと信じることによって、初めて戦場に立てる。

 常に死と隣り合わせに生きている戦士ほど、生に貪欲な者もいない。

 そんな戦士たちが、死に魅入られた。

 恐怖を斬り捨てようと剣を振りかぶり、おめきながら斬り掛かる戦士たち。まるで蘭の花に擬態した花蟷螂に吸い寄せられるように、近づき、そして……喰われた。

 トワロかまきりの名は、双剣を使う、その剣技によるものではない。自分を愛してくれる者の生命すら、喰らわずにいられない彼女の性、そのものだった。

 彼女に剣を向けるものの生命など、腹の足しにもならない。

 だから彼女は、倦むこともなく、血を浴び続ける。



いつもありがとうございます。

彼女が何故こうなってしまったのか。そんな外伝も書きたんですけどね〜。まずは本編か……


次回予告!


一万を越える影が巨人に襲い掛かっていた。

満身創痍になりながらも、戦い続ける巨人。

そしてついに、影どものコアが姿を現した。


七幕第五話「王」

6/16更新予定!!!



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