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震撼



「あなた、お城の子でしょ。今のうちに、お城に逃げましょう」

「なに言ってんだよ!?トワロさんに守ってもらうって――」

 マーゴに向かって言ったラミアルの言葉に反応したのは、トリウィだった。

「このままじゃ、いくらトワロさんでも持ちこたえられないわ。あたしたちがいなくなれば、トワロさんは逃げることが出来るのよ!」

「だったらどうして最初から……」

「あたしたちだけじゃ、途中で野盗にあったときに、どうにもならないからよっ!」

 そう叫んで、ラミアルはマーゴの肩を揺さぶる。判断を間違った。まさか城下町に、こんなにも多くの賊が入ってきているなんて。後悔が一瞬心をよぎる。

「さあ、行きましょう!」

「……でも、わたしは」

「これだけ火が大きくなってるんだから、そろそろ城兵も町へ出てきてるはずよ。あなたがいないと、あたしたちが保護してもらえないの。早くっ!」

「うわあッ!?」

 突然トリウィが悲鳴を上げた。煙をまいて、ペグを乗せた豹が返ってきたのだ。

「ペグさん!? どうして――」

「お姉ちゃん! お父さんがきた!!」

「えっ?」

「お父さんって……ロウゼン様?」

 トリウィが城の方を振り返ったその時――

 煙に白く染まった空気が震えた。

 野生の三角牛でさえ、道を譲らんかという勢いで、一人の戦士が駆けてきた。マーゴにちらりと目を遣ると、足を止めぬまま剣を抜く。

「あの女の人を助けて!」

 マーゴが叫ぶ。誰かは知らないけれど、自分を命懸けで助けてくれた。わたしはどうなっても構わないけど、わたしのせいであの人が死ぬのは嫌だ。

 その声を背中に受け、ロウゼンが雄叫びを上げて、敵のただ中に飛び込む。

 通りに迫り来ようとしている炎でさえ、その勢いを減じた気がした。

「なに?」

 大きな力で背中を押された気がして、トワロは一瞬身を竦め、しまったと臍を噛む。戦いの最中に、わずかな隙も許されない。

 だがそれを感じたのは彼女だけではなかった。そこで戦う者すべてが、その力に気を取られていた。まず立直ったのは、もちろんトワロ。

 この隙に――

 滑る剣を握りなおすトワロの横を――

 力が駆け抜けた!

 すでに耳を聾せんばかりに高まっている炎の唸りを圧倒する雄叫びを放ちながら、剣を振るう。トワロの間近で構えていた戦士が、弾け飛ぶ。

 それだけで敵の戦士全員が、震えた。

――蛮王……

 そう、誰ともなくつぶやく。わずかな仲間とともにランデレイル城に討ち入り、乗っ取ったロウゼンのことを、知らぬ者などいない。そして、その顔を知らなくとも、今飛び込んできた巨漢がロウゼンだと、わからない者もまた、いなかった。

「す、すげえ!」

 幻滅しかけていたことなど忘れて、真っ赤に顔を染めたトリウィが叫ぶ。

 すべての技を凌駕する力。怪力などという見かけのものではない。力の上に立つ力。

 その男はただ、すべてを圧倒していた。

 踏み込む足が、大地を揺らす。薙ぎ払う剣は、その纏う風に触れるだけで、生命の火が消し飛ぶ。

 トワロですら、両手の剣を下げ、ただ見ていることしか出来ない。それなのに、嵐に憧れる雲雀のように、トリウィがロウゼンに向かって一歩踏み出す。その襟首を、ラミアルが両手で思いっきり引っ張った。

「ダメよ! また来るわ!」

 マーゴの隣に尻餅をついたトリウィの頬に、ちくり、と豹のヒゲが触る。

「うひゃあ!」

 通りの真ん中に飛び出したトリウィの目の前を、多くの戦士が走り抜けた。ロウゼンに従って城を出たものの、疾駆するロウゼンについて行けなかった戦士たちが、ようやく追いついたのだ。

「ロウゼン様っ!」

 先頭を走るシージが叫ぶ。すでに全員、抜き身の剣を手にしている。

「賊を討てっ!」

 シージがそのまま剣を振り下ろした。賊共はすでに戦う気も失せていたのだろう。かえって退く理由が出来てほっとしたように、剣を引き、身を翻した。

「ロウゼン様」

 シージが立ち止まり、トワロを一瞬見やってから、ロウゼンに指示を仰ぐ。もしやグルオンを待たねば、まともな指示は来ないかとも思ったが、ロウゼンが口を開いた。

「町の外まで払え。そこで待っていろ。すぐに行く」

「――!? わかりました!」

 シージは、その口調には似合わぬ表情でにやりと笑い、走りだした。

 どうやら、密林を出てきたのは、間違いじゃなかったようだ。そういや、マーゴとペグの姿はあったが、付けてやった二人はいなかったな。まあ、俺たちシュタウズとは違うからな。逃げやがったか。それともくたばったか。あの女は何者だ? まあ、俺には関係ないか。

「殺せーっ!」

 笑いながら、シージが叫んだ。



いつもお付き合いいただきありがとうござい、です^^

今、非常に大きな悩みがひとつ。

ロウゼンとトワロ、どっちが強いかなぁ。


次回予告!


「違うっ! 貴様の敵は、あの女だ!!」

 マーゴの声には耳を貸さず、巨人はただ邪悪な影だけを殲滅していった。

 巨人は気づいていたのだ。マンティスとマーゴの臭いが同じであることを!


六幕第十三話「邂逅かいごう


5/22更新予定!!

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