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怨敵の影

 グルオンはロウゼンを振り返った。この男もわずかに眉をしかめている。

「通せ」

 グルオンに命じられて、正門までの途が開かれた。そこに立つのは、強壮な体付きをした戦士がひとり。

「我はミューザ王に従いし者。統一王ベルカルクの定めし法に従い、ここに宣戦を布告する」

 それだけを述べて踵を返そうとする男を、グルオンは青ざめた顔で、呼び止める。

「待て。町に火を放ったのも、ミューザ王の手の者か」

「城内城下を治めるのも、城主の勤めだろう。それを怠って、我が王に罪をなすりつけるか」

 使者のあざけるような声に、グルオンは、言葉を失う。

「――ならば、どうして契約の残る今、攻めてくる。ミューザ王が反乱を操っているからだろう」

「知らん。疑うならば、王に訊くがいい。それまで生きていられるのであればな」

 使者は踵を返し、そしてもう一度振り向いた。

「そうだ。ランデリンクと、ラルカレニ。どちらの城も、ミューザ王の支配下に入った。四方をすべて囲まれて、気の毒なことだ」

「馬鹿なッ!?」

 ランデレイルから出ている道は、全部で四本。ランデリシアから右回りに、ランデリンク、ロイズライン、ラルカレニにつながる。もともと味方の勢力などない、このランデレイルだが、これで完全にミューザ王の勢力に囲まれたことになる。

 だが、その情報がまったく城に入ってこなかったとは。いや、たしかに今この城下町に入ってきていたのは、野盗くずれの者共だけだった。それがすべてミューザの手の者であったとしたら。

「ふっ。我が王を敵にまわせばこうなる。アデミア王の下にいたあなたなら、知らぬはずはないだろうに」

「……私を――」

「もちろん知っている。ベルカルクの盾と呼ばれた戦士が、こうまで愚かだとはな。ネズミでさえ、一度痛い目を見れば、危険には近づかないものを。では、失礼する」

 言うだけ言って、使者は去っていった。

「ロウゼン……。すまない……ここまでのようだ」

「構わん。他の城を取ればいい。どこが取れる」

 グルオンは、思わず息を呑んだ。そうだ。この城に乗り込んだときは、たった四人と一匹だった。今の戦力は、その時と比べものにならない。

「そうだ……な。ランデリンクやラルカレニが、本当にミューザの軍門に下ったとすれば、おそらく組合と共闘契約を結んでいるだろう。この戦力で、正面から契約中の城を取るのは難しい。サルト! さっきの使者はランデリシア城主ではなく、王の名において宣戦布告したな。だったらランデリシアだけじゃなくロイズラインからも攻め込んでくるはずだ」

 王の名における宣言は、配下すべての城が宣言することに等しい。

「しかし、あそこもまだ共闘契約が残っているはずです」

「残っているにしても、二、三日だろう。主力はランデリシアからだとしても、きっと兵を出してくる。こっちに攻め込んでくれれば、城が逆に手薄になる。そうだ!それにロイズライン方面には、マーゴとペグが出掛けている! ロウゼン!!」

 ロウゼンは、グルオンの目を見返し、大きく息を吸った。

「ロイズラインを取る。続け!!」

『おお!!』

 ロウゼンの大音声に、いつしか彼の周りを囲んでいた戦士たちが、こぶしを振り上げて叫んだ。みんな悲壮感さえ漂っていたのに、すでに欠けらもない。すでに煙に霞む城下へ向けて、走りだした。

 グルオンは、開き直った。ロウゼンと共に戦うということは、今までの戦い方と別れを告げることだ。前の戦いでそれは理解したつもりだったが、まだ甘かった。あの夜、この手で殺したあの男も言っていた。ミューザは統一法を利用して戦っていると。ならば私たちは、法を超えてやる。

「シージ!お前はロウゼンについて全軍の指揮を取れ!」

「わかった」

「サルト!お前は組合長のところへ――」

「は!?しかしロイズラインを攻めるのなら、契約は無効に……」

「そうじゃない!共にロイズラインへ向かえ。生き残った者はすべて契約すると伝えろ。ミューザは町中に火を放った。そんな奴に支配されたいのかと言ってやれ!」

「――!わかりました!」

「そいつらの指揮は任せる」

「はっ!」

 シージもサルトも、城から駆け出ていく戦士に混じって出ていった。場内に残ったのは、炎を上げる建物と、裏切り者たちの骸と、その声にたぶらかされた野盗上がりの者たち。彼らだけは覇気をなくして、立ち尽くしている。

「何をしている。剣を拾え!」

 皆が僅かに騒つく。

「ロウゼンは、貴様等が裏切ったことなど気にしない。手柄を立てれば、私も貴様等の罪は忘れよう。それとも、ここに残り、ミューザの軍に殺されるほうを選ぶのか?」

 互いの目を見交わし、そして剣に手を伸ばす。

「いくぞ!!」

『おう!』

 そして、グルオンも走りだした。ロウゼンの背中を目指して。



お付き合いいただき、ありがとうございます。

楽しんでいただけているでしょうか。

ガンガンいくよ〜


次回予告。


「やっとあえたな。貴様の力はわたしが――!?なにっ?」

ァァァァァァァァァ

炎に囲まれたわずかな空隙、ついにマーゴと対峙したマンティスが!


六幕第九話「親と、子と」

5/8更新予定!!



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