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錯綜(さくそう)の剣戟


「ちょっと待て! 何を言っているっ!?」

 グルオンの剣を必死に防ぎながら、シージは叫んだ。

「カムリの手下が、急に暴れだした。どういうことだ」

 鍔迫合いの途中で問い質す。

「カムリが!? ならば、なぜお前はジェイフィアを斬った!」

「俺じゃない!!」

 力をこめて、グルオンを突放す。

「じゃあ、誰だ!」

「知らん!だがあれを見ろ!」

 シージが剣先で閲兵場を指す。

「!!」

 味方同士が入り乱れて、乱戦になりかかっていた広場の只中にロウゼンが入っていったことで、ふたつの勢力がはっきりと色分けされていく。ロウゼンを中心に、彼に背を向け円陣を組みはじめたのは、森の民と正規兵たち。そして、彼らを取り囲むように剣を向けるのは、確かに野盗上がりのカムリ配下の者たちだ。

「カムリはどこだ」

「知らん! 今日は見ていない」

 そう言えば、朝食の時に、姿を見せなかった。今日はマーゴとペグが密林に行くから、それを気に掛けることもなかったが、まさか……。

 だから、契約を結んでおけと言ったのに。グルオンは、籠手をはめた左手で壁を殴りつける。

 カムリがこのような行動にでたのは、おそらくロウゼンを討ち取り、この城の主人におさまること。契約によってすべての裏切りが防げるとはグルオンも思っていないが、少なくともこのような事態にはならなかったはずだ。契約主を裏切ることは、統一法の定める最高の罪なのだから。

「お前はロウゼンの味方か、敵か」

 切っ先をシージから逸らし、改めて問う。

「味方に決まってる。裏切ろうもんなら、シズロの婆に殺されちまう」

 グルオンは、そう答えるシージの顔を睨みつけた。統一法とは別の掟に従う森の民の方が、この際あてにできるかもしれない。

「わかった。とりあえず賊を討つ。ついてこい」

 そう言って、閲兵場に駆け下りる。

「ロウゼン。裏切りだ。首謀者は、おそらくカムリ」

 剣も抜かず、戦士たちの真ん中に悠然と立つロウゼンに駆け寄って、グルオンは告げた。

「どこにいる」

 顔をわずかに彼女に向け、そう尋ねるロウゼンの目を見てグルオンは怯む。とくに責めるような目付きをしているわけではないが、彼の問いに答えることができないのが苦しい。

「今朝から行方が知れない」

「そうか」

 ひとつうなずくと、円陣の端、剣戟の音の響く場所へ向かって歩きだす。

「ロウゼン!?」

 ロウゼンはゆっくりと歩を進め、ひとりの賊の前に立ちふさがる。その賊は、剣を抜かないままのロウゼンに気を呑まれ、斬り掛かることもできない。それでもまだ、ロウゼンにすれば、気を抑えているほうだ。グルオンの知る彼の気勢は、こんなものではない。

「頭はどこだ」

 その問いに、賊の男は、小さく何度も首を振る。次の瞬間、抜き放たれたロウゼンの剣が、その首を撃ち落とした。

「知っているのは誰だ」

 ロウゼンが睥睨へいげいする。それだけで味方だけではなく賊共の動きも止まり、ただひとりの女に賊の視線が集まった。

「お前は……」

 グルオンが声を上げる。確かにカムリと一緒にいるところをよく見かけた。

「くっ!」

 その女が、一声呻いて斬り掛かるのを、ロウゼンが無造作に斬り捨てる。

「カムリの一党に唆されただけの者は、剣を捨てろ。命だけは助けてやる」

 グルオンの言葉に、野盗上がりの者共は互いの顔を見合わせる。その動揺を見抜いて、シージが叫んだ。

「かまうことはねえ。皆殺しだ!」

 敵のほとんどが、慌てて剣から手を離す。残ったのは、皆の背後、兵舎の前に固まっている一団のみ。そいつらは怯えたように辺りを見回す。だが逃げようとしても、門はすでに固められ、城の奥は、自ら放った火がすでに逃げ道をふさいでいた。

殲滅せんめつしろ」

「待て……いや、いい」

 シージの命令をグルオンは遮りかけて、思い止まる。勝負は決まっているし、カムリはどこにいるのか、他に仲間はいるのか、聞き出したい情報はいくらでもあるが、それだけの時間がないのも明らかだ。この場から見ても城の建物だけではなく、塀の向こうに見えている役所も火を噴き、町中から立ち上る煙で、陽も翳っている。そして切り刻まれる賊たちの悲鳴が途絶えた。

 この城は……駄目だ。ただでさえ十分ではない戦力のうち、カムリの配下はサルト配下の城兵に迫る数を揃えていた。それらすべてが反乱に加わったわけではないようだが、今の混乱で命を落とした者も数えれば、この城の戦力は半減したといってもいい。共闘契約の延長は禁止されている。城を建てなおす資金もない。町が焼けてしまえば、税を集めるわけにもいかないし、そのための官僚が無事かどうか。グルオンは灰色に煙った空を見上げた。この城を失って、どうすればいい。

「グルオン様――」

「なんだ」

 門を固めていた城兵がひとり走り寄ってきた。グルオンの問いに顔を強ばらせて答える。

「門前に、使者が……」

「使者だと!?」


お付き合いありがとうございます。

まだまだイキマス


次回予告!!


巨人を囲む無数の影。それらの殺意が膨れ上がり――

があああぁぁぁぁ……

ただ一度の巨人の咆哮で、すべてが消し飛んだ。

しかし、まだなおも現れ続ける、異形の者共。


六幕第八話「怨敵の影」

5/5更新予定!!


それは奇しくも、子供の日……


特に意味は無い(蹴)

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