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憩う朝

「気をつけていけよ。前はロウゼンがいたから平気だったかもしれないが、密林は本当に危険なんだからな」

 次の日の朝、主殿の階段から閲兵場へ降りたところに、二人の少女と一匹の獣を囲んで、数人の戦士がたむろしていた。そのうちの一人、グルオンが、マーゴに噛んで含めるように言い聞かせている。

「わかってます。大丈夫だよね、ペグさん」

「うん!」

 マーゴに聞かれたペグは嬉しそうだ。ロウゼンが行かないと知ったときはちょっと不満そうだったが、すぐにそれも忘れてにこにこしている。

「いいか、ちゃんと大人の言うことを聞いて、暗くなるまでに帰るんだぞ」

 マーゴの頬が、不満げに膨らむ。たしかに二十歳になるならずの、少女というよりは女の子といったほうがしっくりくる見た目だが、彼女の本当の歳は、グルオンも知っているのだ。だがグルオンは、マーゴの睨みつける視線は無視する。

 実はロウゼンに、彼から止めてくれるよう、それとなく言ったのだが、取り合ってもらえなかった。

 ロウゼン自身が密林を危険だなどと思っていないのだから……。まあ、仕方ないけども。

「グルオンさん?」

「あ、いや。シージ」

 マーゴに不審げに見上げられて、グルオンはシュタウズの男に振り返った。

「コルスとランタナだ」

 それを受けて、シージが自分の後ろに立つ二人の戦士の名を告げる。

「戦いがないのであれば、シュタウズを出すまでもないだろう。クアとガラムの者だ。獣を追い払うくらいは出来るから、子守には十分だろう」

 そう言うと、さっさと背中を向けた。それをグルオンは、苦笑いをしながら見送る。口も性格も悪いが、たしかに強いし、その力で森の民をまとめることが、シージには出来る。グルオンにとって、それで十分なのだ。「気をつけてな」ともう一度声を掛けて、彼女も主殿への階段に足を掛けた。

「さあ、行きましょうか。よろしくお願いします」

 そう言って、マーゴはコルスとランタナの二人に軽く頭を下げる。

「豹。いこっ」

 ごろんと横たわって、前脚を舐めていた豹に、ペグが声を掛ける。豹は、のっそりと体を起こして、ペグについていく。

 うーん。やっぱり野性をなくしてるわよね。そうひとりごちながら、護衛を務める二人を見上げる。見上げるといっても、ランタナはキシュにしては非常に小柄な女性で、マーゴと比べても頭ひとつくらいしか変わらない。コルスもそれほど大きな男ではない。黒い髪を肩まで伸ばして、キシュらしくなく優男という表現がぴったりだ。それに比べればランタナは、赤毛をぼさぼさに伸ばして、露出のおおい革服から覗く肩や腹には筋肉が盛り上がり、体の小さなことをのぞけば、典型的なキシュに見える。

「どうしました?」

 柔らかな表情を浮かべるコルスの顔に、マーゴは思わず見惚れてしまう。その視線に気づいたコルスが、首を傾げて訊ねた。はらりと落ちる髪の毛が、陽光を反射して濃い緑に輝く。よくみれば、黒く見えた瞳も、緑がかっている。

「あ……あの……シージさんって、なんか性格悪そうですね」

 マーゴの白い頬が、朱に染まる。――何を言ってるんだろ。

「あの人はシュタウズですから。はるか昔に、統一王に最後まで抵抗した部族だという誇りが、今でもあるんですよ。それに比べて私たちクアやシェルミやガラムというのは、それ以前から密林で暮らしていますから、少し低く見られるんですよね。まあ、シュタウズが森の民じゃないっていうのは、私も賛成ですけど」

「ロウゼンさんと、ずいぶん違います」

「まあ、あんな誇りを大事にしているのは、族長に近い人たちくらいですから」

「あの方は密林で暮らしていたのだろう。だったらあの方はガラムだ」

 後ろを歩いていたランタナが口を挟んできた。

「どういうことですか?」

 そう問い返すが、ひとこと言って満足したのか、一歩下がって、口をつぐむ。マーゴは困って、またコルスを見た。

「ガラムは、集落をつくって暮らさないんです。数人の家族がくっついたり離れたりしながら、狩りをして密林の中を渡り歩きます。そういうことじゃないですか」

「でも、ロウゼンさんは、ずっと一ヶ所に住んでいましたよ。たまに町にも出てたらしいですし」

 そう言うと、コルスは笑って、肩をすくめた。こんな男の人は、今まで周りにいなかったのよね。マーゴはゆるむ頬を抑えることが出来ない。

 こんなになごんじゃうと、力を引き出すのは無理かな。まあいいや、また今度出掛けたときでも……。



お付き合いいただきありがとうございます。


次回予告


「なんだっ!?」

 突然、トリウィの周りに妖気が渦巻いた。

「ダークマンティスが目覚めようとしている。だめよっ、トリウィ、おさえてください」


六幕第三話「接近」


4/17更新予定!!


じわ〜

じわ〜


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